パニックの手 (創元推理文庫)(ジョナサン・キャロル)★★★★☆

パニックの手 (創元推理文庫)

パニックの手 (創元推理文庫)

しばらく前から気になってたジョナサン・キャロルに初挑戦です。

津原泰水氏推薦――「読者の人生をくるわせるほどのかっこよさである」(本書解説より)
黄昏の列車のなかで、ぼくは目を瞠るほど美しい親子と同席になった。妖艶で饒舌な母親と、うまく舌が回らず涙ぐむ娘。だが母親が急にぼくを誘惑しはじめ、逃げようとしたとたん「いか、か、か、かないで、お願い!」娘が腕にかじりついてきた。……物語に潜む“魔”が筆舌に尽くしがたい余韻を残す表題作をはじめ、世界幻想文学大賞受賞作「友の最良の人間」など全11編を収録。普通小説とファンタジイ/ホラーの融合を果たした、鬼才ジョナサン・キャロルの世界! 解説=津原泰水

一番最初に収められている「フェドルヘッド氏」を読んで、頭をがつんと殴られたような気がした。この作家、すごいかも。そして間違いなくわたしは彼の小説のファンになる。
その「フェドルヘッド氏」は、友人からプレゼントされた自作のイヤリングをめぐるミステリ的展開で、でも途中から一転、予想もつかないファンタジーが現実と交錯する。そのジャンルミックス的なかんじと、ダークファンタジーとしての切れの良さは、乙一の作品から受ける印象とちょっと似てるかも。続く「おやおや橋」も同様。幸せな老夫婦と愉快で有能な家政婦の楽しい日々が一転、予想外の展開とともに、過去と向き合う切なさが描かれる。
一方、ファンタジーではない短編もいくつかあって、シンプルながらもこの著者の上手さが冴え渡る。たとえば「秋物コレクション」。死期の近い冴えない教師が過ごした、ニューヨークでの最後の日々温かく描かれる。そして本書の中で個人的に一番好きな「手を振る時を」。恋人を失った男の一日が描かれるが、文庫本でたった7ページという短さ。でも失恋の痛みをここまでくっきりと丁寧にかつシンプルに描いた小説を、これまで知らない。
そしてこの著者はかなりの犬好きとみた。世界幻想文学大賞を受賞した「友の最良の友人」も「ぼくのズーンデル」も犬小説なのだ。しかしズーンデルって架空の犬種みたいね。検索しちゃったし。
というわけで、大満足どころかちょっと興奮気味です。はやいとこ制覇したい。