さくら草 (創元クライム・クラブ)(永井するみ)★★★★

さくら草 (創元クライム・クラブ)

さくら草 (創元クライム・クラブ)

永井するみ久々の新刊です。『ビネツ』以来かな。ということは丸一年ぶりですね。

殺害された少女たちが身にまとっていたのは、カリスマ的な人気を誇るジュニアブランド、プリムローズ。ただの偶然か? それともプリムローズを着た少女たちを偏愛する男たち<プリロリ>による犯行か? ジュニアブランドとしては素材もデザイン性も高級で、値段も高いプリムローズに世間の非難が集まる。一方で少女たちの間ではプリムローズの人気がさらに高まって……!?
ブランドを守るため必死に立ち回るゼネラルマネージャー・晶子、所轄の少年課から引き抜かれた刑事・理恵、娘を失ったショックから精神バランスを崩す母親・栞、モデルを目指す少女たち……プリムローズと殺人事件がクロスしたとき、女たちの運命が激しく揺れ始める。

永井するみはどんどん上手くなってる。驚くほどに。2年くらい前に「本の雑誌」で北上次郎が、(永井するみは)近いうちに傑作を書く、と断言してたのを信じてずっと読んできたけど、どうやらその予言、あたりそうです。ツメが甘いとかオチが弱いとかこれまでの作品はいろいろありましたが、今作は文句付けたくありません。前作の『ビネツ』もかなり良かったんだけど、現時点で本作が永井するみの最高傑作でしょう。
本作の事件の中心にあるのは人気のアパレルメーカーで、著者お得意の<業界>ネタだ。だけどこれまでの作品は日常に潜む闇がメインでサスペンス性が高かったのに対し、本作はがっつりとしたミステリ。これがめちゃめちゃ読み応えがあるんですね。永井するみの得意とする心理描写の上手さに、たたみかけてくるようなストーリー展開が加わって、怒濤のラストも納得。構成も上手い。あまり伏線が張られているわけではないので、謎解きするためのミステリじゃないけど、時間を忘れて読みふけっちゃうこと間違いなしの一冊です。
それにしても著者お得意の心理描写が冴え渡った作品だった。あこがれのモノを手に入れるためにはどんな努力も惜しまない少女たち、仕事への情熱のもととなっていた<少女時代のあこがれ>が崩れてボロボロになるキャリアウーマン、幼き日のトラウマを抱えた女刑事、娘のことになると目の色を変える母親……彼女たちはどこか歪んでいて、でも普通の女なのだ。永井するみは、そういう微妙な<心の闇>を描かせたら上手いんだよね、ホント。
それにしても、満足度高かったです。これからもこれまで以上に期待して、次作を待ちます。