冬の犬 (新潮クレスト・ブックス)(アリステア・マクラウド)★★★★★

冬の犬 (新潮クレスト・ブックス)

冬の犬 (新潮クレスト・ブックス)

同じくクレストに収められている『灰色の輝ける贈り物』に続く短編集。というか原著では『Island』という全短編集を、日本版ではこの二冊に分冊したもののよう。どの短編も同じように、切なくて美しい。

・すべてのものに季節がある(1977)
サンタクロースの正体に頭を悩ませる11歳の少年が見る、働き盛りの長男といつしか年老いた父親の風景。そして少年はサンタと決別する。
どこにでもある家族のクリスマス。なのに、誰も避けることが出来ない、過ぎ去る時間の切なさが詰まった一作。
・二度目の春(1980)
家畜で生計を立てる一家の息子が、よりよい牛の血筋をつくろうと、一匹の牝牛を種付けに連れて行くがその道中……。
本当の自然は、人間にコントロールされない。少年はそれを悟る。でもそれは、お父さんもそのまたお父さんもきっと同じような体験をしてるのではないかと思った。
・冬の犬(1981)
早朝、雪のつもった庭で犬と遊ぶ子供たちを見ながら、男は子供の頃いつも一緒だった一匹の犬を思い出す…。
切なくて最高の犬小説ですね。
・完璧なる調和(1984
山の上で孤独に暮らす「本物のゲール語民謡の最後の歌い手」。TVショウで披露してほしいというオファーが来て、彼のまわりはちょっとだけ騒がしくなるのだが…。
妻との蜜月の回想シーンも切なくていいのだが、なんといってもラスト、格好いいじゃない。
・島が太陽を運んでくるように(1985)
馬車に敷かれた子犬を拾って育てた男と、その一族の物語。
これも犬小説だけど、こちらはやりきれないなぁ。
・幻影(1988)
30kmほど離れたカンナ島に住む祖父母を訪ねた幼き日の父親の想い出、そして数年後に偶然知った祖父母をめぐる意外なドラマ。
事実は小説より奇なり。いや小説ですけどね、そう思いました。
・島(1988)
離島に生まれ島とともに生きた女の、静かで激しい<海>そのもののような人生。
めずらしく女性が主人公の物語ということもあってか、とても印象に残った。ラストが最高です。
・クリアランス(1999)
スコットランド・ハイランドに住む人々を強制的に立ち退かせた「クリアランス」によってカナダにやって来た男。土地を開拓し、家族をもうけ…。
これも切なくていい物語なんだけど、凝縮したらコントになるな…なんて思ってしまったわたしを許して。

そんなわけで彼が発表した短編16編をすべて読んでしまったわけだけど、そのクオリティーの高さに改めて驚かざるを得ない。しかもそのすべてが労働階級に生きた人の人生やその家族を描くという点において共通してるのに、どうしてこんなに様々な感情を吹き込めるのだろう。短期間でまとめて読んだのに、決して飽きることがなかった。どれも読み始めればぐいぐいその世界へ引き込んでくれる。またどの作品も、そこに登場する人物はみな、貧しくとも自分の信念に基づいて正しく生きていて、だからこの短編集はとても美しい。
でもあと一編でこの著者の作品をすべて読んでしまうことになるのか。寂しいな。ホントに寡作だな。でも残る一編は著者唯一の長編で、かなり評価の高い作品らしいので、今から読むのが楽しみだ。