あなたに不利な証拠として (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)(ローリー・リン・ドラモンド)★★★★☆

このハヤカワのシリーズは、古い作品ばかりだと思ってた。根拠なしの勘違い。本書は、2005年MWA賞の最優秀短編賞受賞作を含む連作短編集で、著者のデビュー作。ルイジアナ州バトンルージュ市警に勤める5人の女性警官の物語だ。
それにしても読む前はすっかり騙されてた。主人公は警察官、ミランダ警告からとったタイトル…ストレートなミステリだと疑いもしなかったのだが、違うんですねこれが。全然、違うんです。
やむを得ない状況で被疑者を射殺し、のちに伝説の警官と呼ばれるキャサリン。ある交通事故をきっかけに警察を辞めたリズ。同じく警官であった父親の亡霊に苦しむモナ。警察に入る前に関わったある事件ー担当刑事が自作自演と捜査を打ち切ったーと、数年後に皮肉なかたちで再会するキャシー。繰り返し起こるレイプ事件、家庭内暴力、女性警官たちの秘密の集いが招いてしまった予定外の出来事……すべてに疲れ、傷ついたサラ。
著者は実際に警察官だったらしい。だから警察官という仕事が、どこまでも生々しく克明に描かれる。死臭の凄まじさ、現場に残る残虐な犯行への怒り、あまりにも近い<死>の存在への恐怖。警察官の仕事を、こんなふうに真っ正面から描いた小説ははじめて読んだ。だって警察が出てくると言えばミステリで、そのミステリでは警察官は主人公の探偵役、もしくは単なるコマとして描かれるものと相場が決まってるからだ。だから、ミステリに登場する警察官は死体や殺害現場に対してまるで無神経であると決めつけてしまってる。でもこの作品は違う。主人公の警察官たちは、わたしたちと何ら変わることのない人間であると改めて教えてくれる。
だから現場の人間だからこそ感じる、強い怒りや絶望が、リアリティたっぷりに繊細に描かれる。そしてその視点はあまりにも私たちに近いから、読みながら登場人物たちと一緒に、胸が苦しくなったり絶望したりするのだ。
読む前とはがらりと印象が変わったけど、嬉しい裏切りでした。面白かったです。次作は長編らしいので、そちらも楽しみ。