無痛(久坂部羊)★★★

無痛

無痛

この人の作品を読むのは初めて。どうもここ数日、読書体力が落ちてて、そういうときは一気読み出来そうな国内ミステリに食指が動くんだよな。読みたい翻訳SFがすごいたまってるのに、なかなか集中できない…。というわけで選んだこのミステリ、期待どおり一気読みさせてくれました。

一目で症状がわかる2人の天才医師、「痛み」の感覚を持たない男、別れた妻を追い回すストーカー、殺人容疑のまま施設を脱走した14歳の少女、そして刑事たちに立ちはだかる刑法39条。罪なき罰と、罰なき罪。悪いのは誰だ?

一目で患者の病状を察することが出来るという医師の存在が面白い。別に怪しげな診断ではなくて、経験に裏打ちされたもの。<気付く>か<気付かない>かー。ただ<気付く>ことができる医師は、助からないものは助からない、とちょっと違うステージから<死>を見ていて、その本心を語ればまわりから避難されてしまう。

そしてもうひとつ興味深いのは、刑法39条。<心神喪失者の行為は、罰しない>ってやつですね。この法律に対して異常な反発を覚える刑事、この法律を逆手に取って人生をリセットしようと企む男、利用される心神喪失者……謎の一家惨殺事件を発端とする事件に、この問題が深く絡んでくる。たしかにこのネタは興味深いからな。いろいろ考えさせられました。

ミステリとしては正直、つながりが強引だったり、まさにテーマとしてる<心神喪失>に逃げてる部分があって、粗はある。でも、勢いがあってぐいぐい読める、骨のあるミステリではありました。今後に期待。