夜の朝顔(豊島ミホ)★★★★★

夜の朝顔

夜の朝顔

豊島ミホ、2ヶ月連続での新刊発売です。前作『陽の子雨の子』は青春期特有の自意識との闘いをストレートに描いた、インパクトある作品だったけど、この作品は『檸檬のころ』にも通じる、切なくて懐かしい短編集だ。この人はこの路線が一番安定してますね。

小学生センリの6年間の断片。
一年生「入道雲が消えないように」。病弱の妹のせいで思いっきり遊べないセンリの夏休みを輝かせてくれた、大好きな親戚の姉弟との数日間が描かれる。ラストがいいです。<子供の世界>と<大人になりかけた世界>の距離は果てしなく遠いと、<子供の世界>の住人は感じるもんだよね。
二年生「ビニールの下の女の子」。山ひとつ越えた向こうの町で同い年の女の子が行方不明になった。突然身近に感じることになった<危険>に、センリや子供たちの心は揺すぶられる。
三年生「ヒナを落とす」。いじめられっこのシノくんがある日、巣から落ちたヒナを拾って学校へ来た。嬉しそうなシノくんと、ヒナに興味津々なクラスメイトに対して、センリはひどく苛つくのだが…。これは上手いなぁ。いじめに対する恐怖や、子供ならではの残酷さがものすごくリアルに描かれてる。
四年生の初夏「五月の虫歯」。虫歯の治療に通う歯医者のそばの公園で知り合った女の子・アザミ。母親は有名な歌手だというアザミの話にセンリは夢中になるが…。子供はなんて弱いんだろう。現実から逃げることさえ、容易ではないのだ。胸が痛くなった。
四年生の晩秋「だって星はめぐるから」。万引きを自慢するカツラと、それを「うざい」と言うセンリの友達の茜。結局クラスの女子全員がカツラをシカトするようになるのだが、それに違和感を覚えるセンリ。怖いんだよね、この年頃の女の子って。付和雷同が生き残る道なのだ。
この四年生二編で、センリの心はまわりよりほんの少しだけ大人に近づいてる。
五年生「先生のお気に入り」。担任の先生にバレンタインのチョコをあげるかあげないかで、ついに茜と仲違いしてしまったセンリ。茜を敵に回すということはクラスの女子全員に無視されるということで…。ここで意外にもそんなまわりの態度をセンリ自身が深刻に捉えてないところに、彼女の成長が伺える。
六年生「夜の朝顔」。早くも色気づいてきた妹に指摘されてはじめて、六年生にもなって寝癖だらけの頭で登校してるのは自分だけだと気付くセンリ。ちょうど同じ日、クラスメイトの男子にもそれを笑われ…。これは初恋の物語。トイレで友達に髪をとかしてもらってるシーンがすごく好き。センリ、可愛いなぁ。


これはね、全体通して上手いですよ。これまでで一番いいかも。わたしが女だからかもしれないけど、ものすごく感情移入できた。小学生の頃って女の子の世界はものすごく過酷なのよ。いつ変動するかわからない人間関係におびえて。そこらへんがとても上手く描いてあるんだよね。細かい描写も凄くいい。一番最初のおじいちゃんのスクーターに乗せてもらって山道を走るシーンからして、こころ掴まれちゃったし。
まさに大人のための<あのころ>の物語。ホント大満足でした。