ミーナの行進(小川洋子)★★★★★

オンライン書店ビーケーワン:ミーナの行進

けっこう久々の新刊じゃないですか? 
読み終えて改めて思いました。小川洋子の作品は本当に素晴らしい。

主人公の朋子は、母親の仕事の都合で中学入学から一年間、叔母の家に居候することになる。初めて会う叔母とその家族、そして芦屋の邸宅は、岡山の田舎から出てきた朋子にとってはまったくの異世界だった。ドイツ人のおばあさん、きびきび働くお手伝いさん、大会社の社長でダンディな伯父さん、あらゆる書物から誤字を探すのが日課の伯母さん、そして病弱で美しい少女・ミーナ、そして……カバ? たくさんの幸せとその裏に見え隠れする切ないエピソードがたっぷり詰まった、家族の<欠けることのない>物語。

この家族にとって朋子の存在は、空気の淀んだ部屋に吹き込んだ風のようなものだったのではないかしら。留守がちな伯父をのぞけば、この家族はまったくといっていいほど外に出ようとしない。ミーナは病気がちだし(カバに乗って学校に行くくらい)、おばあさんは足が悪いし、叔母は書物に向かいっぱなしだし、お手伝いの米田さんは家族の世話で一日中家のなかにいるし。それはとても安定してるけど、どこへも広がることのない世界。朋子が視点になってるのでわかりづらいが、屈託がなく様々なことに興味を示す朋子の存在に、みんなが救われていたのではないかと思う。

そして物語を彩るエピソードの素晴らしさといったら! マッチ箱から紡ぎだすミーナの小さな物語、そのマッチ箱を通じた片思い、現れなかった流星群、ローザおばあさんのたくさんの時間が詰まった部屋、サルのサブロウの逸話……などなど取り上げればキリがない。というより、この小説を構築しているのはすべて珠玉のエピソードなのだ。

読み終えて、胸がいっぱいになった。また時間のあるときにでもゆっくり読み返したいものだ。