新世界(柳広司)★★★☆

新世界

新世界

『トーキョー・プリズン』の熱気が覚めやらぬまま、この人の他の作品に手を伸ばしてみました。

第二次大戦が終わった夜、原爆が生まれた砂漠の町で一人の男が殺され、混沌は始まった。狂気、野望、嫉妬、憐憫…天才物理学者たちが集う神の座は欲望にまみれた狂者の遊技場だったのか。そしてヒロシマナガサキと二つの都市を消滅させた男・オッペンハイマーが残した謎の遺稿の中で、世界はねじれて悲鳴を上げる。

またしても第二次世界大戦がらみですが、こちらの舞台はアメリカのロスアラモス。原子爆弾を開発するために急遽つくられた、隔離された街だ。ひとつの殺人事件をきっかけに、オッペンハイマーの苦悩と、恐るべき実験が徐々に明らかになる。

わたしはオッペンハイマーの名前くらいしか知らなくて、途中で検索かけたりして読んだんだけど、オッペンハイマーはじめ登場人物のほとんどが実名のようですね。

これまた、読ませます。あまりに圧倒的な史実の前で、フィクション部分が弱く感じたけど。でも、ナチスドイツへの恐怖心から生み出された原爆が二つの都市を壊滅させた、その重圧と科学者としての純粋な喜びの狭間で、オッペンハイマー狂気に追い込まれていくあたりはとてもスリリングで良かった。そして被爆直後のヒロシマの描写はもう…小説版『はだしのゲン』ですね。字面を追うのが辛く感じたほどだった。

というわけで、一日で柳広司の戦争関連ミステリを二冊も読んじゃったわけなんですが、この人は別に戦争ものばかり書いてるわけじゃないようです。他の作品も読んでみたいな。

そして二冊連続で第二次世界大戦に関する小説を読んだわけですが、わき上がる疑問がひとつ。さんざん言われていることではあるけど、どうして日本はたった60年前に自国が深く関わったこの戦争を学校できちんと教えないのかな。たしかに教科書に載ってはいるけど、あくまで「歴史の一部」ってかんじの扱いだったし。まーいろいろ詳しく突っ込んで教えれば、あっちからもこっちからも抗議が来るんだろうけれども。でもね、義務教育のなかで、もうちょっときちんと教えないとダメだと思うよ。

とりあえずオッペンハイマーに関するノンフィクションとか読んでみたいな、と思いました。