トーキョー・プリズン(柳広司)★★★★

トーキョー・プリズン

トーキョー・プリズン

この人の作品を読むのははじめて。なのだが、ちょっとぶっ飛んだ。

元軍人のフェアフィールドは、巣鴨プリズンの囚人・貴島悟の記憶を取り戻す任務を命じられる。貴島は捕虜虐殺の容疑で死刑を求刑されているが、その記憶からは戦争中の記憶がすっぽりと抜け落ちているというのだ。時を同じくして、プリズン内で不可解な殺人事件が起きる。その殺人は<密室状況>で為されていた。フェアフィールドは貴島の協力を得て、事件の謎を追うのだが……。
実力派作家が満を持して放つ、傑作エンタテインメントの誕生!

面白いですよ〜、これ。
キジマの捕虜虐待は事実かねつ造か? フェアフィールドの捜査を妨害するのは誰だ? プリズン内で起こった不可解な事件の意味するものは? キジマとは何者なのか? …すべての謎の背後にあるのは、戦争というあまりに深い闇なのだ。
事件そのもののサスペンス性が高くて引き込まれるのだけど、物語に厚みを加えているのは<戦争>そのもの。戦争という名のもとでは人を殺してもいいのか? 完璧な民主主義は存在するか? 現実から目を背け続けた先にある未来とは? 苦しみの末に吐き出されたこの問いに、まだ人間は答えることが出来ずにいる。何度も胸が痛くなった。

正直、ミステリとしては若干強引な部分もあるけど、それはいいじゃないか、と思える出来。個々のレベルにおける戦争の重みをストレートに描きながら、物語全体をみればエンタメ作品として十分に成功している。とても良かったです。