ソラリス (スタニスワフ・レム コレクション)(スタニスワフ・レム)★★★★★
- 作者: スタニスワフレム,Stanislaw Lem,沼野充義
- 出版社/メーカー: 国書刊行会
- 発売日: 2004/09/20
- メディア: 単行本
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惑星ソラリスを探査中のステーションで異変が発生した。謎の解明のために送りこまれた心理学者ケルヴィンの目の前に自殺した恋人ハリーが姿を現し、彼はやがて悪夢のような現実と甘やかな追憶とに翻弄されていく。人間とはまるで異質な知性体であるソラリス。そこには何らかの目的が存在するのだろうか。
ラストを読んでうなった。そうだよね、どうして人間は、未知の生物も自分たちと同じ思考回路を持っていると信じたがるのだろう。未知ならば、違って当然なのに。生態の違いや文明、知能の差は想像しても、根本的な思考回路については疑わない。その裏にあるのはやはり人間のおごりか。人間を大きく上回る知性を持つ生命体であるのにまったくコミニュケーションがとれないこのソラリスの前で、ただ翻弄されるしかない人間の姿を描いたこの作品が、高い評価を受けるのも頷ける。ある意味、盲点だよね。
それにしても訳者あとがきで、<実際にかなり多くの読者は『ソラリス』に「宇宙空間での痛ましくも甘いラヴ・ロマンス」を読みとり、それゆえにこの作品を愛してきたのかもしれない。>と書いてあるが、本当だろうか? わたしはケルヴィンの恋人・ハリーが出てくるシーンは怖くてぞくぞくしながら読んでしまったが。だって正体不明にもほどがあるよ。ま、たしかにこの物語を盛り上げてる一因ではあると思うけどね。
でもたくさんの読者を引き込んだのは、全体に行き渡るこのサスペンス性ではないかしら。まったく未知の敵の手のひらの上で転がされてるようなもので、片時も気を抜けなくて、いっそのこと狂ってしまえば楽なのに、と思ってしまうほど精神的に追いつめられる、このスリルはたまりません。
まぁでも、この作品の面白さはひと言ではまとめられない。設定の面白さも、展開の上手さも、ロマンスの切なさも、様々な仮説によるソラリスの謎の奥深さも、深く考えさせられるラストも、すべての要素が絶妙な分量でブレンドされた、見事な作品。
面白かったです!!
余談。
今日読み終わって気付いたのだが、こないだブックオフで『ソラリスの陽のもとに』というハヤカワ文庫を見つけたので、この続編かと思って買ってきたらただの旧訳版だった…。ちなみに一緒に購入したのが新刊本で買っていたことを忘れていた『さよなら妖精』で、しばらくブックオフに行くのは止めたほうが良さそうな気がした。