ファンタジスタ (集英社文庫)(星野智幸)★★★★☆

ファンタジスタ (集英社文庫)

ファンタジスタ (集英社文庫)

最近、この人が新聞に寄稿した文章(WBCに関するもの)が賛否両論を呼んでるようですね。
そんなことはさておき。ちょうど買おうかどうか悩んでた作品がちょうどよく文庫化されてゴキゲンです。

首相公選制がしかれた近未来の日本。投票を明日に控え、かつてサッカーのスタープレイヤーだった政治家・長田が圧倒的な支持率で最高権力者になろうとしている。人々はこの清新で危険なにおいのするカリスマに夢中だ。だが、果たしてこの選択は正しいのだろうか? わたしたちはどこへ向かっているのか? 忍び寄るファシズムの空気を濃厚に描く、第25回の野間文藝新人賞受賞の傑作小説集。

選挙を間近に社会全体がヒートアップするなか、あるカップルの亀裂が印象的に描かれる。走り出したファシズムに、正攻法であらがうことなど不可能なのだ。流されるか、もしくは輪そのものから外れるしかない。
解説でいとうせいこう氏が指摘してる、主人公のユニフォーム交換への嫌悪感、もまた印象的だ。汗をたっぷり吸ったユニフォームを交換し、他人のそれをまた着る。それを嬉々として行ない、また相手もそうしてくれるはずだという根拠のないそれは、ファシズムそのものを象徴しているようだ。

絶望と気持ち悪さを、繊細にかつ力強く描いた、素晴らしい作品でした。