深淵のガランス(北森鴻/文芸春秋)★★★★★

深淵のガランス
花師と絵画修復師、二つの顔を持つ男・佐月恭壱を主人公とした新シリーズ。絵画にまつわる深い闇と、人間の欲望が絡み合う、まさに著者にとっては<ホーム>な作品でして、面白くないわけがない。


この人の作品(シリーズもの)で嬉しいのは、他のシリーズの主人公が脇役として華を沿えてくれること。絵画修復師が主人公であるこの作品に、<あの人>が出てこないわけがない‥‥と期待して読み出したら、ある意味裏をかかれましたね。ちらっと出てくるどころか冒頭からがっつり話に絡んでくるじゃないの。どうやらこの作品の主人公である佐月と<あの人>は公私ともにわたってただならぬ仲のようだ。


今ふと思ったんだけど、ネタバレでもなんでもないからわざわざ<あの人>なんて書く必要ないね。そう、骨董業界の旗師<冬狐堂>こと宇佐見陶子ですね。ただ作品中でも名前はほとんど出てこなかったので、その雰囲気に流されまして。


視点によって宇佐見陶子という人物像のイメージに変化が出てるのも、なかなか面白かった。宇佐見陶子が主人公の<冬狐堂>シリーズを読んでいると、がむしゃらで一本気で反面ひどくもろい部分もある、彼女の内面がのぞけるわけだけども、まわりから見れば、格好よくてクールな謎の女(ついでにトラブルメーカー)。安々と自分をさらけ出すタイプではないから、そう見えて当然と言えば当然か。


ついつい大好きな冬狐堂のほうへ話がそれたけど、この主人公の佐月もなかなか謎の存在だ。なぜか嫌っていた父親と同じ職業を選び、絵画修復の喜びも絶望も知っている男。まだまだ読者に語られてない過去がいろいろありそう。冬狐堂との関係も含めて、今後が楽しみなシリーズです。