誰も知らない五つ星ホテルの24時間―匿名ホテルマンの爆笑告白記(イモジェン・エドワーズ・ジョーンズ&匿名/和波雅子・訳/ソニー・マガジンズ)★★★★★

誰も知らない五つ星ホテルの24時間―匿名ホテルマンの爆笑告白記
本屋で見かけて衝動買い。

まさか、ロンドンの超高級ホテルで
そんなことが!
でも、すべてホントの話なんです……

ベテランのホテルマンが匿名で、これまでの体験談を
1日24時間のドラマに構成した抱腹絶倒のノンフィクション

ロンドンの五つ星ホテルを渡り歩いたホテルマンが暴露するトンデモエピソードという素材を、まさに業界暴露ものを得意とするベストセラー作家が料理しちゃうんだから、面白くないわけないですよ。


主人公は由緒ある<ホテル・バビロン>レセプション担当のベテランホテルマン。二日酔いの頭を抱え出勤してみれば、アメリカ人の宿泊客から「朝食のステーキが来ない」とのクレームがお出迎え、チェックアウトの時間になればポルノラインによる多額の電話代を払うの払わないので大攻防、客は仕事に出かけたのに<プリティ・ウーマンごっこにふけろうとするコールガールをさっさと追い出し、金をばらまく油田王の到着にざわめき、女性一人客のバックから転げ落ちた巨大バイブレータを拾い差し出すボーイの顔は真っ赤、やっと交代の時間が来たのに交代するレセプションが仮病でお休みします、というわけで引き続いてお仕事、満室な上に部屋が足りないのでわざわざ二部屋とる不倫カップルをまるめこんで一部屋に押し込め、お一人様の日本人ビジネスマンは他のホテルに引き取っていただき、さらにサウジ首長のアポなし登場に青ざめ、夜になれば酔っぱらい客とアホスタッフのせいで救急車と消防車がご到着、オナー・バー(バーテンダーもウェイターもいないバー)ではまさかの「本番」真っ最中、やっと朝方かと思えば、イカれ女がロビーでヌードショーを大公開、警察の手を借りて何とか収集、最後は<常宿客>である上品な老婦人の最後を見届けて、やっとバトンタッチ!


こんだけネタが詰め込んであると、読んでるこっちも息抜くヒマがない。さらに主人公の回想やスタッフ同士の会話の中で、これでもかこれでもかというほどにトンデモネタが溢れ出す。


有名人たちのエピソードが多いのも楽しい。オアシスのメンバーが部屋を思いっきり破壊したのでがっぽり請求してホテル側はニコニコだったとか、マイケル・ジャクソンはお抱えのシェフを連れ歩いてるのにハンバーガーやナゲットしかつくらせないとか(マック行けよ!)、女王陛下はカンパリ・オレンジしか飲まないとか…ゴシップ好きなイギリス人たちを楽しませるに十分な暴露ネタが惜しげもなく披露されてる。


でもそんなゴシップネタが目立たないほどに、この物語は刺激に溢れてる。
普通の客が引き起こす予想もつかないトラブルも面白いのだが、それらと同じくらいスタッフサイドの物語もしっかり描かれているせいだろう。ホテルで働く不法入国者たちの多さ、やり手コンシェルジュの見事な八方美人ぶり、詐欺師レベルのトークで客を楽しませるバーテンダー、汚れ仕事ではあるがプロの自覚を持つ客室係、地獄としか言いようのない調理場…。
きらびやかで重厚な五つ星ホテル、そんな表舞台すらなかなか立ち入れないのに、その裏側まで見せちゃうんだから、楽しくないわけがない。


刺激的なネタがたっぷり提供されたとはいえ、読者をジェットコースターに乗せちゃったような24時間にまとめあげたこのライターさんが素晴らしい。業界暴露本って固いイメージのものが多いのに、この作品はまるで小説を読んでるかのごとく楽しめた。ていうかまぁ、厳密に言えばノンフィクションではないからね。現実のエピソードを料理した一小説と言っても過言ではないかと。そのくらい、このライターの巧みさがびしびしと伝わる一冊だった。


今イギリスではこれがTVドラマ化されて、大人気らしい。日本でもDVDとか出たら見ちゃう。でもこんだけ人気になっちゃうと、ロンドンのホテルマンたちはみんな疑いの目で見られてるんじゃないかしら…(笑)