バックマン・ブックス〈2〉ハイスクール・パニック (扶桑社ミステリー)(スティーヴン・キング/扶桑社ミステリー)★★★★

バックマン・ブックス〈2〉ハイスクール・パニック (扶桑社ミステリー)
キング読むの久しぶり。なんかさくっと勢いで読める翻訳モノないかな…と本屋を徘徊してたところ、別に新刊でもないのに平台に並んで「まぼろしとなる前に読め!」みたいなことが書いてあるPOPが差してあって、ちょっと気になるので買ってみた。

<二年前のことだ。そのころから、ぼくのあたまはおかしくなりはじめたーーー>
プレイサーヴィル・ハイスクールの最上級生である、ぼく(チャーリー・デッカー)は五月のある晴れた一日、教室で二人の教師を父のピストルで射殺した。あっという間の出来事だった。警官隊に包囲された。ぼくとクラスメートたちが体験する、まるで白日夢のような、しかし緊迫した時間ー。モダンホラーの巨匠スティーヴン・キングが高校生の不安定な心の世界を鮮やかに描いた、異色の青春サスペンス小説!

本国で発表されたのは1983年だが、この小説は著者が高校生の時に書いたものを焼き直して出版されたものらしい。デビュー十年目に発表されたものであっても、本質的には初期中の初期の作品ってわけですね。


この小説の凄いところは、最初から最後まで<狂った少年>の一人称で描かれてることだろう。
どこかちぐはぐで不完全な印象も、チャーリーというフィルターを通してこそだと思うと、さらに恐ろしくなる。読み手にとっての絶対的な足場である、物語の視点の持ち主の正気が定かでない。この気味悪さに吸い込まれる。


包囲された中、チャーリーとクラスメイトは支配するものとされるものという関係であるにも関わらず、奇妙な信頼関係を築き始める。ストックホルム症候群とかではない。クラスメイトの一人が、チャーリーがこんなことをしたのは彼の両親に原因があるはずだと言い出したことがきっかけだった。
リクエストに応じるかのごとく、チャーリーは彼と両親の関係をたんたんと話し始めた。それはありふれた家族の物語。……だから、クラスメイトは彼を理解する。
どこへぶつけることもできないいらだちは、それこそが彼らにとって共通するものだ。親や学校へそして不自由な自分へのいらだち。ときにすべてを壊してしまいたくなるほどの憎悪。それはとても子供っぽいものだけど、ティーネイジャーであれば誰もが通る道。だからクラスメイトたちは当然のごとく、彼を理解する。


緊張感漂いながらも、どこかなごやかな雰囲気もある奇妙なまとまりの中で、ひとりつまはじきにされる少年がいた。それは優等生のテッド・ジョーンズ。彼はチャーリーを気違いの犯罪者だと正義感を振りかざし、チャーリーと普通に接するクラスメイトを、信じられないものを見たような目で見る。
冷静に考えれば彼の対応はおかしなものではないが、チャーリーを理解したクラスメイトからすれば、テッドこそがチャーリの憎むもの、ひいては自分たちの憎むものの象徴のように写る。それは<社会>そのもの。テッドを敵と認めることで、さらにクラスの結束が増していく……。


やっぱキング上手いよなぁと思うのは、外はてんやわんやの緊張状態にあるにも関わらず、舞台である教室が切り離されたかのような異空間に仕立て上げられてるあたり。恩田陸っぽいんだよね。むしろ恩田陸がキングっぽいというほうが正しいのだろうけど。どちらの作家の作品も、そのストーリーテイラーぶりがいかんなく発揮される、こういうタイプのものがかなり好みだな。


キングは未読のものがいっぱいなので(ていうか作品多すぎ)、ちょこちょこいいタイミングで読んでいきたい。