ケルベロス第五の首 (未来の文学)(ジーン・ウルフ/図書刊行会)★★★★★

ケルベロス第五の首 (未来の文学)
とても評判がいい(玄人受け)というのは知ってたのだけど、難解そうなイメージだったので手を出さないまま、でも何となく気になる作品だった。でも今月また同じく<未来の文学>シリーズからこの著者の作品がでてたので、思い切って挑戦してみる。

地球より彼方に浮かぶ双子惑星サント・クロアとサント・アヌス。かつて住んでいた原住種族は移民した人類によって絶滅したと言い伝えられている。しかし異端の説では、何にでも姿を変える能力をもつ彼らは、逆に人類を皆殺しにして人間の形をして生き続けているという……。「名士の館に生まれた少年の回想」「人類学者が採集した惑星の民話」「尋問を受け続ける囚人の記録」という三つの中編が複雑に交錯し、やがて形作られる一つの大きな物語と立ちのぼる魔法的瞬間ーーー【もっとも重要なSF作家】ジーン・ウルフの最高傑作。

このあらすじを読む限り、いつまでたってもSF初心者なわたしにはちょっとハードル高いだろう。
でも意外なことに読み始めると、予想していたよりは読みやすいかも、と思った。いや、むしろつらつらと読める。で、つらつらと読み終えてしまったんけど、わたしはこの物語を全然わかってないと思った。夢みたいなんだもの。それぞれの印象的なシーンは記憶してるのに、つながりがすっぽり抜け落ちてるような。夢ならそれでいいけど、この作品においては抜け落ちた部分こそが<核>である気がする。
それが悔しい。だから訳者である柳下氏の解説をじっくり読んで、あたまから再読してみた。これは実はわたしにとってはとてもめずらしいことだ。この世に小説は腐るほどあるんだから読めない本はスルーしてどんどん次にいくべき、というポリシーをもつわたしが!…って胸張って言うことじゃない気がするけど。でもね、もっと理解したいと思うほどにこの作品が魅力的だったわけですよ。わからないなりにも。
で、再読は大成功でした。二度目のほうが何倍も面白かった。作品のもつ情景が全然違って見えたもの。
まぁ、わたしの読書スタイルが悪いせいなんだろう。ひどく集中力がないせいか、どんな本読んでるときもあっちこっちに意識が飛んじゃうのだ。目は字を追ってるのに全然頭に入ってないことが、実はかなりある。そんな読み方でも理解できる小説は多いんだけどね。
…とまぁ、この作品を通して自分の悪癖を再認識したわけだけども。



前置きが長くなったけど、この作品は素晴らしい。実は二度読んでもまだ理解できてない部分があるとは思うけど、素晴らしい作品だといいたい。
あいまいなアイデンティティとあいまいな世界をつなぐ細い糸が、物語の奥で絡み合う。点も線もぼんやりしてるのに、それを彩るエピソードは鮮やかで、ときには生々しいほど。
この物語の難解さを強調するような感想になっちゃってるけど、取っ付きにくい難解さはまったくないんだよ。SF初心者のわたしですらつらつら読めちゃうくらいに。
二度読んでもこの物語には自分の気付いてない何かがある、と思わせる深さと繊細さは、<難解>という言葉の持つイメージとはちょっと違う気がする。何度読んでも、新たな一面を魅せてくれる希有な小説ではないかしら。だからわたしも何度でも読みたい。