シティ・オブ・タイニー・ライツ(パトリック・ニート/早川書房)★★★

シティ・オブ・タイニー・ライツ
人生で必要なことはすべてクリケットから学び、ワイルド・ターキーと煙草がなくては手先が震えるアフガニスタン帰りの元聖戦士で、現在はロンドンで探偵業を営むパキスタン系イギリス人トミー・アクタルが本書の主人公。ある日、メロディという黒人娼婦が仕事の依頼にやってきた。行方不明となった娼婦仲間を探してほしいという。気乗りしないまま女の行方を探し始めたのだが、やがてそれが下院議員の殺害事件、さらにはロンドンを襲ったテロにまで事件はつながっていく。好奇心も手伝って捜査を進めるトミーの身にも危険が迫っていた…。
ユーモアとウィットに富んだ文章と、人間味あふれるキャラクターがとても印象的。物語はスピード感こそやや足りない感はあるが、テンポが良くてさらりと読める。
ただ主人公がちょっとどうかと思う。「おまえはお気楽すぎる、トミー・ボーイ」と父親のファルザドが苦言を呈するシーンがあるのだが、いやまったく、と読んでるわたしも頷いてしまった。この主人公、自分で動くぶんにはいいのだが(潜入とか聞き込みとか)、全体を見通す能力が著しく欠けてるだろう。そこは君が予測してしかるべき事態なんじゃないの?ってことがいろいろあるんだよね。
ラストもちょっと中途半端かなぁ。ありきたりなラストにしたくない気持ちはわからんでもないけど、不発弾っぽい終わり方はちょっとフラストレーションがたまる。本当の犯人の動機もちょっと説得力に欠けるしなぁ。
著者紹介によると、本書が本国イギリスで発売された二週間後のロンドンであの同時多発テロが起きたらしく、その予言的内容が話題を呼んだとのこと。
あの事件の時TVでライブ映像を見ていて思ったんだけど、イギリス人はテロに対してわりと落ち着いた対応だった。規模が全然違うとはいえアメリカのあのヒステリックな対応を見ていただけにちょっと意外に思ったのだ。でもよく考えたらちょっと前までIRAのテロとかも頻繁にあったわけし、ヨーロッパなんて基本的に攻めては攻められの歴史なわけで、平和ボケにもほどがある日本やアメリカとかに比べたら<攻撃>に対する過剰反応はないんだろうなぁ、と納得。…ということを思い出してると、さらにこの作品の<動機>が疑問に思えてくるのだけれども。まぁそこらへんの感覚は、自分の国じゃないとわからないことなんだろうね。

というわけで、一人称語り口の洒脱さ、登場人物は移民ばかり、という独特なテイストは素晴らしい。ただしひとつの探偵小説としてみるとどうなの?という部分と、イギリスに住む移民の感覚自体がつかめなかったため感情移入しにくかったかなと。