エンジェルズ・フライト〈上〉 (扶桑社ミステリー) エンジェルズ・フライト〈下〉 (扶桑社ミステリー)(マイクル・コナリー/扶桑社ミステリー)★★★★★

エンジェルズ・フライト〈上〉 (扶桑社ミステリー) エンジェルズ・フライト〈下〉 (扶桑社ミステリー)
ド級に面白い小説を読むといつも幸せな気持ちになる。黒猫が100匹目の前を横切っても(実際一匹横切られた)、今日のわたしは幸せだ。
コナリーの看板ともいえるハリー・ボッシュシリーズの6冊目にあたるのが本書だ。現在ボッシュシリーズで翻訳されてるのは9冊。途中で出版社が変わったりしたこともあってか順番が前後したけど、これでシリーズはすべて文庫になったよう。
といってもわたしもかなり順番無視な読み方をしてる。一番最初に読んだのがシリーズ8冊目『シティ・オブ・ボーンズ』の単行本で、それから過去の作品を文庫でだだっと読んで、最新刊は講談社からいきなり文庫で出たのでもう読んじゃってるし。一回通しで読みたいな。というかほとんど読んだのは2年以上前で、まったくストーリー忘れてるし。
忘れてるくせに何を言うと自分でも思うが、本書はボッシュシリーズの中でもかなり脂の乗った作品ではなかろうか。


ある夜、ボッシュは警部補から直に管轄でもない殺人事件の捜査を命じられる。理由をいぶかるボッシュだが、被害者の名前を聞いて腑に落ちた。殺された男は有名な黒人の人権派弁護士エライアスだったのだ。ロス市警を相手取って訴訟を起こし有罪を勝ち取ることで名声を上げてきたマイノリティのヒーロー、市警の横暴を食い止めることが出来る唯一の人間と信じられていた男、ゆえに市警の目の敵だった男。おりしも市警を相手取った大きな裁判の開廷が数日後に迫った夜に、殺害されたのだ。事件が公表されると時を同じくして、全米中からロス市警に疑いの視線が集まることに、市内の酒屋が襲われることに、何の疑いがあるだろう? そしてどこの善人が警察官が人を殺すなんてあり得ない、と弁護してくれるだろう? ボッシュのチームがエライアスのこれまでの裁判に関わってないことを建前に、その実、ボッシュのパートナーであるエドガーとライダーが黒人であることを理由に、捜査の指揮を押し付けられたボッシュ。暴動が起きた際それを最小限に食い止めるためにも、猛スピードで捜査を進めようとするボッシュチームだったが……。


という最初の下りでもうがっちりつかまれちゃいましたね。もうとんでもないスピードで物語は進み、経験に裏打ちされたボッシュの勘が冴え渡る。ドキドキしながらも爽快。で、この人の作品の場合、ラストにさしかかるくだりを読みながらもついつい残りのページ数を確認して、こりゃあと二転三転するな、とか期待させてくれるのも嬉しい。だってその期待を裏切られたことがないもの! 
そしてシリーズ全般を支えてるボッシュの人間味あふれる一面はここでも健在だ。現場では冷静に鋭い指示を出せるボッシュだが、一方で突然家を出てしまった妻のエレノア(元FBI捜査官かつ元プロギャンブラー)に対してはひざまずかんばかりの動揺を惜しげもなく見せる。また事件の容疑者にされてしまった昔のパートナーを救おうとする熱意、人種的な問題で部下を煩わせたくないという決意…。やっぱ上手いよね、コナリーは。
シリーズものの海外ミステリってあんまり読んでないけど、やっぱ個人的にはこのコナリーの<ハリー・ボッシュ>シリーズと、ジェフリー・ディーヴァーの<リンカーン・ライム>シリーズが今のところマイベストだな。
あ、あとめちゃめちゃな順番でシリーズを読んで、しかもそのほとんどを覚えてないわたしだからこそ言えますが、シリーズだからといって最初から読む必要はまったくないです。どの作品も独立して楽しめますから。