ガール(奥田英朗/講談社)★★★★

ガール
奥田英朗の最新刊。妙齢(?)のを女の子を主人公にした短編集です。
女性を主人公にした物語を描ける男性作家って、素晴らしい。読者にとって作者が異性で主人公が同性だと、主人公の心情を厳しくチェックしちゃうんだよね。だからジャンルうんぬんよりも、性差を超えれるかどうかで作者の力量がわかる気がする。奥田英朗はそこを完全に超越している上手い作家です。
ここで描かれるのは、30代の「キャリアガール」たちのタタカイだ。突然の人事異動により年上で男性の部下と渡り合わなくてはならなくなった聖子、友達に影響されてマンション購入を考え始めたゆかり、後輩たちのノリについて行けなくなってはじめてこれからの自分を憂う由紀子、シングルマザーとして職場復帰を果たすがまわりの遠慮に苛つく孝子、ひとまわり年下のカワイイ新入社員に恋してしまう容子。みんなじたばたしてるけど、可愛いガール。
どれも良かったけど、一番好きだったのはやっぱ表題作「ガール」かな。入社したてのピチピチな女の子たちとは違う、わかっていながらもそれを直視し認めることが出来ない由紀子。仕事はできるが年甲斐もなく派手な格好をして甘えた声を出す先輩?お光、同い年ながら優等生的でそつがない博子…対照的な二人に囲まれた仕事をこなすうち、由紀子はこれからの自分に漠然と希望を見いだしていく。
女はいくつになっても肩書きのない<ガール>でいたいんだよ。<女の子>でもなく<キャリアウーマン>でもなく<シングルマザー>でもなく、さ。仕事はちゃんとやってきてるから<女の子>扱いはされなくない、でも世間のイメージの<キャリアウーマン>ほど強くもないし、たとえ<シングルマザー>だとしてもそれを理由に仕事を減らされるのは嫌だ。それは会社組織にとっては単なるわがまま…? でもそこを上手いこと処理していくのも<ガール>ならではかも。仕事は男性とタメを張るくらい出来るのにくだらない偏見でひどい扱いを受けて多少へこんでも、やっぱタフだ。だてに十年も社会渡ってきたわけじゃねーんだよっ!! てかんじ? そういう仕事上の問題も、個人的な問題も、女ならではの「タフさ」でなんとか乗り切っちゃう。主人公たちと歳が近いせいもあるかもしれないが、ぐいぐい来ちゃたな。
30代女性の<リアル>…女性作家が描いたらけっこう生々しくなっちゃうんだよね。奥田英朗が描いたこの短編集は決して生々しくないのに、ポイントをついてる。だから男性読者もぐいぐい読めるだろうし、女性読者は胸を突かれるだろう。それがすごい。異性を主人公にして異性読者に共感を得るコレ系の小説を書ける人は、(書けるのに書かない人は別にして)そうそういないと思う。
やっぱ、奥田英朗はいいよ。