センチメンタル・サバイバル(平安寿子/マガジンハウス)★★★★

センチメンタル・サバイバル
平安寿子の最新刊。最近ペース早いっすね。長編は結構久しぶりだなぁ。「くうねるところすむところ」以来? 
24歳のフリーター・るかは、両親が田舎に戻って祖父のそば屋を継ぐことになったため、未婚のキャリアウーマンである叔母・龍子と同居することになる。引っ越し当日、るかは叔母の部屋のベッドの頭上に掲げられている書を見て絶句するーそこに書かれていたのは「愛はいらない、お金が欲しい」…。居心地のいいバイトを続けるだけで、将来に何の危機も抱いていない女・るか。性格は破綻してるが、ビジョンを持ってどこまでも前向きに生きる女・龍子。性格は正反対、歳の離れた二人の同居生活はどうなるのか…?
現代におけるフリーターの存在を、わりとストレートに描いた作品ですね。
夢も向上心もとくにないし、居心地のいいこの現状を維持するだけではダメなの? そう考えるるかの存在はとてもリアリティーがある。これだけフリーター人口が多いんだもの。言葉にしなくても、そう考えてる人は多いんじゃないだろうか。でもそういう考え方は、他人から見れば「甘え」でしかない。もちろん「甘え」てる部分もあることは、本人も自覚しているのだ。でもどうしたらいいかわからない。
当たり前のことなんだけど「人生は十人十色」ということをこの小説はあらためて教えてくれる。大事なものを見つけるまでの時間も、頑張るタイミングも、生きるスピードそのものも、誰一人同じ人なんていない。だけどひとつ確実なことがあって、それは「歩き出さなきゃ、どこにも行けない。」ということ。大きな一歩じゃなくていい、スタートダッシュしなくてもいい、ただ歩き出さなきゃどんな可能性も失われてしまうのだ。
たくさんのエピソードと女二人のとめどない会話に彩られた、読み終わって元気の出るいい物語でした。