カポネ(佐藤賢一/角川書店)★★★★

カポネ
格好いいぜアル・カポネ

20世紀初頭のニューヨーク。青年アル・カポネは度胸の良さを買われ、地元ギャングのボス、ジョニー・トリオの経営するクラブのバーテンになった。みずからの手で初めての殺人を犯すカポネ。その手際を褒められたカポネだったが、良心の呵責にもさいばまれ、ギャングの世界から足を洗うことを決意する。が、父の急死で困窮に陥った家族を養うため、再び浦社会に舞い戻り、今度はシカゴで闇酒業に手を染めることに。頭角を現し始めたカポネはライバルを葬り、さらには自分のボス、トリオをも引退へと追い込んでゆく……。

カポネっていうのが実在の人物であることも知らずに読み始めたのだけど、これが面白かった!
自分を大物に見せるにはどうしたらいいかわかっている。とにかく頭が切れる。だからこそマスコミを手なずけ民衆の心を集めた。その裏にある素顔は、イタリア系らしい人情深い一面。だからこそマフィアのボスでありながら貧しい人々のヒーローとしてあがめられた。そしてもう一方で、ここぞというタイミングで自分が世話になったボスの命さえ狙うという、冷酷なまでの嗅覚。それゆえにシカゴの裏社会を統一し、全米から注目されるギャングスターにまで登り詰めてしまう。
前半はこのカポネの少年時代からシカゴのトップを極めるまでが描かれるのだが、後半はFBI特別捜査官であるエリオット・ネスの視点で描かれる。凝り固まった正義感故に、禁酒法違反でカポネを追いつめようとするのだが、その実、カポネイズムに心酔している、ちょっと薄っぺらなやつだ。彼の視点から描かれる、カポネの最後はひどく寂しい。が、やりきれない気持ちは、最後のエピローグでちょっと救われる。
この著者の作品を読むのは初めてだったので、読み終わった後調べてみたら、歴史物を書く人なんだね。とっても上手い。ついつい入り込んじゃったもの。実際カポネの伝説的なエピソードがあってこそだろうけど、それをこの著者のフィルターを通して素晴らしいひとつの長編小説に昇華してる。このひとの他の作品も読んでみたいです。