ヴェネツィアで消えた男 (扶桑社ミステリー)(パトリシア・ハイスミス/富永和子・訳/扶桑社ミステリー)

ヴェネツィアで消えた男 (扶桑社ミステリー)
数日前に読んだ短編集「11の物語」がめちゃくちゃ面白かったので、続いて購入。めずらしくここ数日は翻訳モノばっか読んでるなぁ。
主人公のレイの妻が原因不明の自殺を遂げた…。妻の父親であるコールマンは、レイが彼女を自殺に追いやったと考え、レイの命を狙う。一方レイは自分のせいではないことをコールマンに理解してもらうため、彼に近づく。殺しかけ殺されかけ、追って追われて…。美しい水の街ヴェネチアを舞台に、二人の男がお互いに挑みかかる。
レイは、自分が妻を追いつめたわけではないとコールマンに認めさせることで、自分のなかにある罪悪感を消したかった。コールマンは、レイを傷つけることで、娘の死を受け入れようとしていた。…のだろうなぁ、と読み終わってからしみじみと思った。他人から見れば狂気の沙汰だ。レイはコールマンに近づかなければいいし、コールマンもそんなバレやすそうななやり方で殺害しようとはしないだろう。ツメも甘いし。二人は誰のためでもない、自分自身のためにお互いのために近づこうとしたのだ。
解説で「ハイスミスの文章は映像的である」と指摘しているとおり、本作でもヴェネチア(行ったことないけどTVとかでよく見るので)の細い運河に沿う石畳の道で、二人の男が追いつ追われつしている様子がぱっと浮かんでくる。だからよけいに怖さが増すんだよねぇ。追いかけていたはずが逆に追いかけられている。殺されそうになっていた瞬間、相手を殺しかけている。二人を視点にして上手く書き分けてる。心理サスペンスの傑作です。