シシリエンヌ(嶽本野ばら/新潮社)

シシリエンヌ
嶽本野ばら最新刊。完全に野ばらワールドです。下妻ノリを期待する読者をあざ笑うかのような、時代錯誤にどこまでも甘美でもの悲しく、かつ官能的な究極の恋愛小説だ。十年ぶりに帰国した従兄弟<貴方>との再会で人生がまったく変わってしまった高校生の<僕>。翻弄されることに何よりもの喜びを感じていた、若い<僕>の恋の顛末が描かれる。
美意識のない人間は人間じゃない、とばかりにしょっぱなからこの小説は排他的だ。だけど殻をどこまでも剥いていけば、ままならない恋心に苦しむ男と女の素顔が見えてくる。そしてこの恋の結末はあまりに寂しい。
美意識でゴテゴテに飾りながらも、本質をついてくる。加えてどんな設定でも美しく、細部までこだわりるあたりは嶽本野ばらしか描けない世界だ。この唯一無二なかんじがたまらない。だから好きなんだよね、この人の物語。でもさすがにこの手の物語が続くと読者もお腹いっぱいになる。そこで下妻ノリの物語をつくれるのがこの人のすごいところなんでしょうね。個人的にはどちらのサイドも好きなので、交互に出してほしいなぁと思います。