クリスマス・プレゼント (文春文庫)(ジェフリー・ディーヴァー/文春文庫)

クリスマス・プレゼント (文春文庫)
ディーヴァーの新刊!しかも初の短編集だ。これは昨年の12月にアメリカで刊行されたものらしく、原題は「TWISTED」だが、書き下ろしの一編「THE CHRISTMAS PRESENT」をそのまま日本版のタイトルにしたみたいですね。時期を考えればなかなかいい選択かと。しかしここに収められた短編はいずれもTWISTEDなだけに、ストレートな原題もけっこう好きだな。
帯には「どんでん返し16連発」…まんまだね。でも初めての短編集ということもあって、読み手としてはいつものような安心感はなかった。長編が上手いからといって短編も上手いとは限らないからだ。これぞ長編ミステリの醍醐味!!とばかりに大胆かつスリリングな展開と緻密な描写による超絶ジェットコースターミステリを発表し続けるディーヴァーだからこそ、一体どんな短編を書くのだろうとドキドキしながら読み始めたのだが…。
心配ご無用。ディーヴァーの上手さは揺るぎません。身近な犯罪をスマートに、かつお得意の「どんでん返し」を必ず入れてきっちりまとめられている。この人は読者を欺くことに生き甲斐を感じてるんじゃないだろうかと思えるほどだ。ある意味長編と同じなんだよね。ディーヴァーがこのまま終わるはずない…という読み手の期待に沿って、ラストで必ずとんでもない真実が明かされる。それが16連発ですよ。たまりません。
長編と決定的に異なる点についてはまえがきで著者自身が明かしている。いわく、長編小説は読者の時間とお金と感情を注ぎ込まれるものだからこそ、がっかりさせるような苦いエンディングには絶対しない、しかし短編は違う、速くてショッキングであることが何よりも重要なのだと。わかってるよね、当代随一のエンタメ系ミステリ作家は。長編だと間違いなく読者が思い入れのあるサイドを勝たせる。でも短編だと善悪関係なく、読者を欺くことにのみ集中しちゃってるんだよね。ふと思ったんだけど、この人チェスとか将棋やらせたら、すごく強いと思うな…。
「ジョナサンがいない」「サービス料として」「三角関係」…どんでん返し炸裂な短編がずらりと並んでいて優劣つけがたいが、この三作はやはり素晴らしい。本書に収められたなかではちょっと異色な「ノクターン」も好きだ。欺くことを目的としたほかの短編に比べると、人情系だし。こういう「いい話」は好きよ。そして日本版の表題作でもある「クリスマス・プレゼント」はなんとあのライムシリーズ初の短編。リンカーン・ライムとアメリア・サックスが巻き込まれたクリスマスの不思議な失踪事件…わりとあっさり解決したかに見えたあとにとんでもなく意外な真実があって、驚くとともにライムの卓越した捜査能力が導きだすラストに、やはり感服。
初の短編集であるにもかかわらず、ディヴァーらしさ満載な一冊でした。ファンはもちろん、ディーヴァー初挑戦の人もハマっちゃうでしょう。足払いされるのわかってるのにその足払いを楽しみに待ってしまう感覚…やっぱたまりません。