どんがらがん (奇想コレクション)(アヴラム・デイヴィッドスン/河出書房新社)

どんがらがん (奇想コレクション)
あーやっと読み終えた。思った以上に時間がかかったなぁ。ちょっと読みづらいんだよね。かといって収められてる16の短編がすべて読みづらいわけじゃなくて、なかにはぐいぐい読めるのもあるし、わけわかんないんだよ。そんなわけわかんないリーダビリティと同じように、作品の幅もやたら広くて、変な架空の生き物を描いた作品から、かなり人情的ないい話まであったりして、ほんとわけわかんない。この世のあらゆる小説をぐるぐるかき回して適当な網でこしたものが、この著者の頭の中に乱雑に詰め込まれてるとしか思えないのだ。実際わたしもついていけない話は飛ばし飛ばし読んだ手前、万人には勧められない。でもね、面白いのよ。
とりあえずわたしのようなSFオンチでも楽しめるのが「パシャルーニー大尉」。父親の幻想にすがる少年に素敵な一日を過ごさせるパシャルーニールパン三世あしながおじさんってかんじかな。「物は証言できない」もいい。奴隷は物であると常日頃から言い張る奴隷承認が鮮やかに窮地に陥る。スカッとします。「さもなくば海は牡蠣でいっぱいに」も身近な場所から落とし穴に吸い込まれて行くようなかんじ。そうなのよ、安全ピンとハンガーって必要なときにはなくて、必要じゃないときには無駄にあるしね。また養老院でのひとつの罪なき嘘が引き起こした小さな悲劇「眺めのいい静かな部屋」もさらっと描かれているわりに、深く、印象的だ。これは養老院という閉鎖性が産み落とした小さくも残酷な戦争だ。背筋が寒くなる。
というわけでニヤリとしたりゾゾッとしたり何ともいえない気味悪さに包まれる、そんな短編集。誰にでもすすめられるものでもないとはいえ、読んでみないとわからないこの奇想天外な小説家を、ひとりでも多くの人に知ってもらいたい気がする。