クリスマス・ストーリーズ(大崎善生・奥田英朗・角田光代・島本理生・蓮見圭一・盛田隆二/角川書店)

クリスマス・ストーリーズ
そのまんまずばり、クリスマスを舞台にした6つの短編によるアンソロジー。なかなか豪華なラインナップなので買っちゃいました。表紙のカバーがキラキラしていてとてもキレイ。
奥田英朗の「セブンティーン」が上手いのよ。いやこの人が上手いのは知ってましたよもちろん。だけどこの短編は変な人たちがドタバタするいつもの奥田色からかけ離れた作品なのだ。主人公である主婦の由美子が「クリスマスイブに友達のうちに泊まりに行く」という娘のウソへの対応に悩む、というとてもシンプルでふつうの家族の物語なのに、ちょっぴりのさみしさとたくさんの優しさが詰まってる。上手いのは知ってたけど、ここまで上手かったかと驚くほどだった。
離婚を目前にした夫婦の最後のクリスマスを描いた、角田光代の「クラスメイト」もいい。ラストの喫茶店でのシーンは何度読み返しても胸がぎゅっとつかまれたような切なさがあふれる。かなしいけど、たぶん最高のクリスマスプレゼント。
個人的にはこれまでイマイチ相性が悪かった島本理生の「雪の夜に帰る」もよかった。長距離恋愛というほどではないが中途半端に離れて暮らす恋人との関係にちょっと疲れた、揺れる女心が巧みに描かれる。
盛田隆二はよくある不倫の物語。悪くはないが何の感想も出てこない。大崎善生は…上手くならないねこの人。勢いがあっただけ初期の作品の方が良かった。それにしてもこのふたつの短編はともに不倫の話で「結婚なんてどうでもいいからただあなたの女でいたい」みたいなひたすら耐える女が主人公なんだよね。別にいいんだけどさ、そのステロタイプな設定に時代錯誤を感じるのはわたしだけ? 蓮見圭一は初めて読んだけど体質に合わん。読んでないけどデビュー作のタイトル「水曜の朝、午前三時」から受ける印象と同じで、野暮ったい。
というわけで3作アタリ、3作ハズレ。引き分けか。でも奥田英朗角田光代のこの短編は絶対に読む価値がある、と断言できるほどの出来映えだったので、どっちかというと勝ちかな。