バスジャック(三崎亜記/集英社)<35>

バスジャック
異例のスマッシュヒットとなった著者のデビュー作「となり町戦争」を読んだとき、変な話を書く人だなぁ、でも面白いなぁ、と思って二作目を楽しみにしてたんだけど、その二作目である本書を読んで確信した。三崎亜記は間違いなく、変な話を紡ぐ作家なのだ。
「二階扉をつけてください」
外階段もないのに二階に扉を付けるのがしきたりである町。妻の留守中に夫は二階扉の工事を依頼するのだが…。トップバッターからしていきなりの変な話。全体に漂う奇妙な心もとなさは、乙一の作品にも似ている。
「しあわせな光」
家族のいない主人公が見た、やさしい幻想。ショートショート
「二人の記憶」
異常に記憶がずれはじめる恋人たち。正しいのは僕なのか?それとも彼女?
「バスジャック」
全国的にバスジャックが大流行。自然発生的にバスジャックのルールが定められ、人々はバスジャックに遭遇するのを楽しみにしている、変な世界。主人公が乗り合わせたあるバスでの出来事がテンポよく描かれる。ラストの落としどころがたまりません。
「雨降る夜に」
とても小さくてやさしい図書館の物語。ふたつめのショートショート
「動物園」
動物に化けることが出来る特殊能力を生かしたお仕事。職場はもちろん動物園です。
「送りの夏」
家出した母親を追ってきた少女が出会ったものは、「動く」ものと「動かない」ものが共に生きる奇妙な家だった。避けることの出来ない別れを必死で引き延ばす、せつない物語。


「二階扉〜」と表題作の二作がとくに素晴らしい。めちゃめちゃ変で、痛快。一方でウケが良さそうな「二人の〜」や「送りの〜」は少し踏み込みすぎな気がした。別れとはなんなのかとかそんなことまで言葉にしてしまうと、この人独特の世界が少し野暮ったくみえる。三崎亜記には、ひたすら変な話の輪郭をなぞってもらいたい。
期待以上に良かったです。次の作品も楽しみ!