愚か者の祈り (創元推理文庫)(ヒラリー・ウォー/創元推理文庫)<34>

愚か者の祈り (創元推理文庫)

コネチカット州の小さな町で、顔を砕かれた若い女性の死体が発見された。頭蓋骨をもとに復元された生前の容貌が導きだしたのは、女優になる夢を抱いて故郷を出た少女が惨殺されるまでの5年間の空白だった。その間に何が? そして彼女を殺したのは? ダナハー警部とマロイ刑事は被害者の過去を追い、ニューヨークへ……。

あまりに残酷なやり口で殺害されていたこと、そして手がかりがひとつもないこと、この二点をのぞけばこの事件はいたってシンプルだ。この作品が発売されたのが1954年だったことを差し引いても、とくに衝撃的な事件でもない。主に描かれるのはダナハーとマロイの仕事ぶりばかりで、奥行きのある小説というわけでもない。
そしてこの小説を面白くしているのは、まさにそのシンプルさだったりする。何一つ手がかりがないところから、二人の刑事の地道な捜査のすり合せから生み出される、事件の真相。その道程だけがどこまでもストイックに描かれる。警察小説の原点を象徴するような作品だ。時代を経るにつれて警察小説は派手さと精密さを増してきた。犯人も賢く挑発的な事件を連続して起こし、追う側の警察もまたテクノロジーを集結させ多角的な捜査を展開する。そんな小説が飽和しているなか、あえて今原点に近いこの小説を読むことによって、あらためて「警察小説」の魅力に気付く。面白かったです。