幸福ロケット(山本幸久/ポプラ社)<32>

幸福ロケット
ほぼ日参してるマイ本屋・浜松町の談はここ1〜2ヶ月、サイン本に力を入れている気がする。本屋としては立地もいいし売り場面積も広いので実際にサイン会が行われることも多いが、基本的にビジネスマン狙いで「さおだけ屋はなぜ〜」の著者とか山本一刀とか横山秀夫あたりのサイン会はやってるのだが、それとは別にサイン本コーナーが設立されてて金城一紀とか笹尾陽子など一般文芸部門の有名どころのサイン本がやたら揃っている。個人的には好きな作家でも別にサイン本が欲しいと思わないのでスルーしてるのだが、今日はこの作品タイトルと著者名を見て立ち止まった。山本幸久のこんな作品あったっけ? 未読本は「はなうた日和」と購入済みのデビュー作だけだと思ってたんだけど…と手に取って奥付を見てみると、発行日は今月の22日。今日入ってきた本なんだな…と文芸の棚も見てみたんだけど、そちらもすべてサイン本だった。不可抗力でサイン本を購入。
別にいやな訳じゃないんだよ? あってもなくてもいいし。でもサインされてるものとサインされてないものがあったらサインされてないものを買うと思う。理由はない。なんでだろう? 大好きな山田詠美のサイン会にすら行こうなんて思ったこともない。本人をちょっとだけ見てみたいかなという気持ちはあるものの、わざわざ並んでまで見たいとは思えない。サインにも握手にもあまり価値を見いだせない。なんか問題あるのか、わたし。
でも読み終わって再びサインされたページを見て思った。距離感が縮まってしまった感じが嫌なのかも。読み手と書き手の距離は等しく遠くあってほしいと思う。だからわたしが今読んでる本を著者が実際に触れた痕跡であるサインは、わたしを居心地悪くさせる。万が一、「○○さんへ」と自分の名前が入ってたら最悪な気分になるだろう。
…ま、そういうわけでわたしが購入した初のサイン本。なかなかかわいいサインでした。
前置きがやたら長くなりました。注目新人作家の最新作です。

クラスで八番目にカワイイ「あたし」(山田香な子、小五♀)と深夜ラジオ好きでマユゲの太いコーモリ(小森裕樹、小五♂)の可笑しくて切ない初恋未満の物語

クラスメイトという関係からちょっとだけ逸脱した香な子とコーモリの関係を軸に、コーモリに片思いするステキ女子ホタルノヒカリ語録が…)とのめんどくさいお付き合いや、それぞれのちょっと複雑な家族事情が優しく描かれる。ストーリーとしてはとてもきれいにまとまっていて、キャラクターたちも愛らしい。
でも……残念! この著者、小学5年生の女の子を主人公にしながら、その年頃の女の子のことをまったくわかってない。この作品に登場する、香な子やステキ女子町野さんは確かに、こまっしゃくれた存在として描かれてる。でもね、そんなもんじゃないんだ。この年齢の女子は。著者が思ってる数倍は小器用で計算高くて縄張り意識が強いの。だからクラスでも派手なグループのそのまた中心である(イコール、クラスの中心的存在である)町野さんが地味な香な子にわざわざ恋の相談するよりも、コーモリと仲がいいという理由だけで香な子をハブにする可能性の方が圧倒的に高いのだ。そんなこと、義務教育を通過した女子は全員が全員知ってることだ。著者は知らなかったかもしれないが。男の子だからね。たとえ有名な作家であっても、よっぽどその年頃の女の子の気持ちに精通してない限り、小中学生の女の子を一人称にした小説を書くもんではない。
そして出てくる大人もやたら「いい人」ばかり。たとえば今、自分が小学生になったとして、まわりにいてほしい大人を描写したかんじ。だから現実に大人が読んで楽しめる小説じゃないんだよね。ラストシーンもいただけない。切羽詰まったときにこんなこと真剣に言える小学生いないって……。読者全員がむかしは小学生だった事実を忘れてる?
この作家が上手いことは「凹凸デイズ」一作を読んだだけでもわかっただけに、版元であるポプラ社の責任は大きいぞ。そこそこ話題になってる作家の作品で主人公が子供だったらそれでいいのか? 作家を育てる気がないなら評価を下げるような作品を出すな、と言いたい。辛口でごめん、だが期待できる作家だっただけにちょっと哀しかったのだ。