In・pocket―月刊〈文庫情報誌〉 (2005年11月号)(講談社)

In・pocket―月刊〈文庫情報誌〉 (2005年11月号)
特集が「2005年文庫翻訳ミステリーベスト10」なので買ってみた。
総合のベスト5は「暗く聖なる夜」(マイクル・コナリー)「痕跡」(パトリシア・コーンウェル)「耽溺者」(グレッグ・ルッカ)「獣たちの楽園」(ジェフリー・ディーヴァー)「斬首人の復讐」(マイケル・スレイド)。ベスト3がすべて講談社文庫なのはご愛嬌。このうち読んだのは「暗く〜」と「獣たち〜」の二冊のみ。一位の「暗く〜」は読者部門・作家部門・翻訳家/評論家部門それぞれでぶっちぎりのトップだ。それにしてもこのランキング、日本で一番早い年間ベストテンをうたってるのはいいのだが、2004年の10月から2005年の9月までなんだね。2005年のベストというのは無理がありすぎるだろう。
分母が少なくて恐縮だが個人的なベスト3は「獣たちの庭園」(ジェフリー・ディーヴァー)「暗く聖なる夜」(マイクル・コナリー)「蜘蛛の巣のなかへ」(トマス・H・クック)、次点に「おれの中の殺し屋」(ジム・トンプスン)かなぁ。時期的に正しく2005年のベストとなれば最近出たリチャード・N・パタースンの「サイレント・ゲーム」がぶっちぎりで一位かも。ただしわたしは文庫でなく単行本で読んだのですが。
獣たちの庭園 (文春文庫) 暗く聖なる夜(上) (講談社文庫) 暗く聖なる夜(下) (講談社文庫) 蜘蛛の巣のなかへ (文春文庫) おれの中の殺し屋 (扶桑社ミステリー)


もうひとつの目玉、「伊坂幸太郎『魔王』を語る」と題されたインタビューも面白い。なんとこの人いったん書き終えて見せた妻に指摘されるまでシューベルト「魔王」を知らなかったらしいのだ! 私なんて読んでるあいだ「おとーさんおとーさんまおーうがーいまー」と頭の中を駆け巡っていたというのに……。全国の小学生は今日もシューベルトによってトラウマをかかえていると思いこんでいたのだが、「魔王」を聴かせない学校もあるんだね…。一回聴いたら忘れないしね。著者は衆院選前に作品を発表できてほっとしたらしい。確かに後手になってしまったら発表しづらいだろう。わたしのなかでは小泉政権とこの作品がリンクすることはないけどね。著者もこの作品は約十年後の日本社会を想定して書いてると語っているとおり、たしかに10年後か20年後には犬養のような政治家によってファシズム化する社会が「あり得る」と感じてしまう現代だからこそ意味がある小説だったように思う。
池上冬樹による「魔王」評も素晴らしく濃くて、作品を読み返したい気分になった。
魔王