虹色にランドスケープ(熊谷達也/文芸春秋)<27>

虹色にランドスケープ
バイクに惚れ込んだ数人の男女のままならない人生を切り取った、せつない連作短編集。
熊谷達也といえば、山とか熊とか海とかシャチとか大自然の恐ろしさを相手にしたダイナミックかつ静謐な小説の書き手としてのイメージが強く、看板でもある「自然」がまったく出てこないこの作品は、著者にとっての新境地といえるだろう。
最初の短編の主人公はリストラされて自殺を企てようとする男が主人公で、のっけから暗くて、重松清路線でも狙ってるのかなぁ…と「熊谷」色が見えないことを残念に思いながら読み進めたのだけど……いやいやそんな心配は無用でした。7つの短編が、バイクと記憶をリングにして大きな一つの物語を生み出す。家族のためにすべてを投げ出す男、生前には知ることがなかった父の意外な一面に困惑する息子、路上で仲間と奇跡の再会を果たした男、事故をきっかけに恋を終わらせた女…それぞれの切ない人生のひとコマと仲間のつながりを描いたこの小説は、きっといつか自分を許せる日が来る、と優しく訴えかけてくる。どれも好きだが、「クラッシュ・ウーマン」とラストの「最後のジェラシー」はかなりぐぐっときました。