夜市(恒川光太郎/角川書店)<18>

夜市
本年度に本ホラー大賞受賞作。
大学生のいずみは、友人である裕司に「夜市に行かないか」と誘われる。連れ立って向かった先は、違う世界の「夜市」だった…。そこはあらゆるものが取引される謎の世界。実は裕司は子供の頃一度迷い込んだことがあり、そのときに野球の才能と引き換えに実の弟を売ったのだ。弟を取り戻すべく、再びやってきたのだがー。
デビューを兼ねたこういう受賞作ってほとんど買わないんだけど(だいたいそのまま消えていくから)、これは予想外に良かったな。世界を隔てて生きることになった二人きりの兄弟、その二人の人生がふたたび交わった二度目の「夜市」は、たまらなく哀しい展開が待っていた。とにかくストーリーがとてもいいの。ホラー小説というよりかは、幻想的で土着的な色合いのあるSF小説といったほうが近いかも。
収録されているもう一つの小説「風の古道」もいい。幼い頃迷子になり、通りすがりの人に不思議な道を教えてもらって家まで帰り着いた主人公。小学生になり、友達と二人で再びその道を通ろうと試みる。だが思わぬ悲劇が二人を待ち受けていた…。古道の住人であるレンのストーリーも印象的だが、古道に魅せられながらも自分の世界へ帰ることを選択した主人公の決意もまた哀しい。
どこか懐かしいような設定を生かしながら、シンプルなストーリーの中に濃密な時間が描かれる。とても魅力的だ。これから先もどんどん作品を書いてくれますように。