逃亡くそたわけ(絲山秋子/中央公論社)<32>

逃亡くそたわけ
博多の精神病院から脱走した「花ちゃん」と「なごやん」。ポンコツ車に乗って二人はひたすら南へ下る…。
地元を愛する生粋の九州人である花ちゃんと、なぜか地元に対して屈折した思いを抱くなごやんというキャラクターがたまらなくいい。わたしは九州人でしかも花ちゃんの地元と近いせいか方言なんてほとんど一緒で、ついでに「リョーユーパン」とかローカルネタでちょっと笑わせてもらって得した気分。それにしても作者って東京育ちでしょ?そのわりによくわかってるなぁ。福岡人は東京を別にして他の地方を馬鹿にしている、なぜなら食べ物が福岡よりまずいから、というエピソードには笑ってしまった。まぁ当たってるよね。大阪人が聞いたら怒りそうだが。一方で名古屋人のなごやんもいい。彼は病院でも自分は東京出身だと偽って標準語しか話さなかったのだ(見舞いにきた両親のばりばりの名古屋弁でばれたのだが)。名古屋の人のことはよく知らないけど、なんかその屈折した感じが見知らぬ名古屋のイメージにぴったり合ってしまうのはなぜ?
目的のない二人の逃亡劇は、お気楽な二人の会話に彩られてどこか愉快で、でもいつか終わりとなるだろうこの旅のあとのふたりの未来を想えばとてもせつない。この旅によって二人が払う代償が大きくても、旅によって二人が捨てられたものの重みのほうが、ずっと大きいと信じたい。
「はー、ゆたーとするごたね」←わたしはわかるよ、花ちゃん。