ハイブリッド―新種 (ハヤカワ文庫SF)(ロバート・J・ソウヤー/ハヤカワ文庫)<31>

ハイブリッド―新種 (ハヤカワ文庫SF)
ネアンデルタール・パララックス>シリーズ完結編。
ついに正式な交流をはじめたふたつの平行宇宙。クロマニヨンのメアリとネアンデルタールのポンターは結婚を考えはじめる。だがあまりにも完璧(に見える)ネアンデルタールの世界に批判的な目を向けるものたちが出現、メアリとポンターの間でもやはり決定的に違う考え方のあいだを上手く埋めることができないでいた…。
複雑な波紋を広げるレイプ事件、迫る地場の崩壊、そして各章のはじめに小分けにして書かれている合衆国大統領のスピーチが、不安をあおって怒濤のラストまで一気に読ませる。飽きさせない展開の上手さはホント素晴らしいね。
でもシリーズ後半になるにつれ文明批判的な色合いが強まって感じられること、それとこれはしようがないことかもしれないけど、クロマニヨンが宗教的なものを絶対としていることにちょっと違和感を覚えた。ま、そこのところ抜きにしてもめちゃめちゃ面白いんだけれども。
この最終巻では、ネアンデルタールの世界の闇も描かれる。異分子を徹底的に排除することで完璧に保たれている世界、戦争も人種差別も犯罪も環境汚染もない世界…それゆえに陰で苦しむ人たちももちろんいるのだ。もしかしたらふたつの宇宙の一番大きな違いは「許し」があるかどうかなのかもしれない。「許し」がある世界では戦争で人がたくさん死んで環境も破壊されている。「許し」がない世界では犯罪も滅多に起こらないし、ハドソン川の水もそのまま飲める。でもそれって罰を重くすれば犯罪が減るって考え方のようでもあるなぁ。
あぁ、なんかいろいろ脱線。とにかく!ネアンデルタールが進化したもうひとつの世界との出会い、あまりに異なる進化と社会制度を備えた世界を知ることによって改めて知る自分たちの世界、そして人種(?)を超えた恋愛……などなど読みどころたっぷりな三冊。楽しかったです。