アンボス・ムンドス(桐野夏生/文芸春秋)<16>

アンボス・ムンドス
なんだかすごくかわいらしい表紙なのですが、だまされないように。桐野夏生の毒がたっぷりと詰まった短編集ですから。帯に「刺激的で挑戦的な作品集」と書いてあるのは頷ける。わたしが気付いただけでもこの短編集に収められたいくつかの作品には「モデル」が存在するからだ。「モデル小説」と言い切ってしまうのは違うかもしれないし、その事件自体をクローズアップしてるしてるわけではなくてそこに関わってしまった人たちの物語ではあるのだが、読みながら頭の中であの事件が連想されてしまうのは間違いない。たとえば有名菓子メーカーへの毒物混入による脅迫事件、大文豪の「妻譲り渡し」事件、教職員二人の不倫旅行中に起こった不幸な事件……。そういう意味では確かに挑戦的か?
まぁそういう現実の事件を思い起こさせる一面にインパクトはあるが、作品集自体は人間の「裏」の一面を生々しく描いたもので、桐野夏生のうまさが冴えわたる。「さすが」な一冊でありました。