ネクロポリス 上 ネクロポリス 下(恩田陸/朝日新聞社)<11-12>

ネクロポリス 上 ネクロポリス 下
実は昨日書店でこの本を見つけて「わ〜恩田陸の新刊♪」とろくに見ずに買ったところ、さて読もうと夜中に開けばなんと<下巻>…。上下巻だったなんて知らなかったし、見た目もすごく似てるから違いまでわからなかったし…しかしせめて上巻を買えなかったものかとがっくりしたものだ。で、今日さっそく上巻を買ってきました。


まず舞台から。この作品で描かれる世界はパラレルワールドのようなものだ。歴史のある時点で日本はイギリスの植民地となっているが、その後独立する。同じく英国の植民地であったために、英国と日本の文化が入り交じった不思議な島国・V.フォー。そのV.フォーのなかにある死者と交われる場所、アナザー・ヒル、これがこの物語の舞台だ。国外の人間からは単なるヨタ話と見られているが、V.フォーの人々は当たり前のことのようにヒガン(日本の言葉からとられた)の時期にはアナザー・ヒルに向かうのだ。
そのヒガンに初めて参加する、主人公のジュンイチロウ・イトウ。彼は若き学者で日本人だが、V.フォーに親族がいたため、このヒガンに参加することが許されたのだ。V.フォーを訪れるのも初めてという彼にとってはすべてが半信半疑だったが、現実に「お客さん」(←ヒガンに現れる死者)を見て混乱するうえに、例年のヒガンにない謎の殺人事件に次々と関わってしまう…。


フワフワとした世界観のなかで起こるスリリングな事件、その奇妙なギャップがたまらない。こんなに分厚い(上下巻で約800ページ!!)のに一気読みしちゃいましたよ。まーラストは納得できるようなできないようなかんじはあるけど、設定からして納得できる答えが存在するとも思えないしなぁ。それよりラストに向かって盛り上がっていくスリリングさ、という点ではこれまでの作品の中でも一番かも。
嬉しかったのはこの物語のなかでも、恩田陸お得意の「お話ネタ」があるところだ。「ネバーランド」や「黒と茶の幻想」のようにそれぞれの謎を登場人物たちが語る、そういうシーンが後半にちょっとだけある。怪談チックな話をここまで効果的に使える作家を、他には知らない。