ニッポンの狩猟期 (角川文庫)(盛田隆二/角川文庫)<22>

ニッポンの狩猟期 (角川文庫)
この人の作品読むのはひさしぶり。
少女は娼婦に少年は麻薬ディーラーに…無国籍かつ無法地帯となってしまった近未来の東京・新宿を舞台に、ストリートチルドレンの生存を懸けた闘いが描かれる。

春日部の孤児シェルターを脱走したカズは、国道を歩き続けた。逃げ出す際、教官をナイフで刺した感触は今も手に残っていた。カズは九歳。生後まもなくトイレに捨てられたため両親のことは何も知らない。帰る家も故郷もない。カズが目指すのは、貧困と暴力とセックスにまみれた混沌の街・新宿だ。だが、そこでは腐敗した警察や自衛団、新宿浄化団がのさばり、街路にあふれたストリート・チルドレンが毎日のように無造作に殺されていた。果たしてカズは生き延びることができるのか。世界の現実を見据える衝撃の近未来小説。

舞台が近未来であってもこの小説はSFではない、と著者はあとがきで語る。ブラジルではカラスを駆除するかのごとくストリートチルドレンが殺されている。日本では援助交際という名の児童買春が低年齢化しながらはびこっている。推計によれば日本国内の無国籍児は一万人を超えている。だからこれは現実なのだとー
この小説は、日本人が無意識に「見なかった」ことにしてる現在の社会の裏側を、表の世界にひっくり返しているのである。児童買春、クスリ、オーバーステイの在日外国人たちの存在……。そしてほころびはじめた社会で一番犠牲になるのは子供たちだ。虐待と貧困から逃げ出しても、社会は決して彼らを受け入れようとはしない。
読後はいろいろ考えさせられるが、ひとつの小説としてもかなり面白い。裏表をひっくり返すという設定がいいし、スピード感ある展開で読ませる。主人公の子供たちの現実をリアルに想像してしまうとかなり痛々しいのだけれども。でも著者の気持ちがすごく伝わってくるのだ。たぶんこの人は「見なかったこと」にはできない性分なんだろう。その想いを小説というかたちでぶつけてくるかんじ。
わたしがこの人の作品を好きなのは、こういうところだと思う。変にこなれてない。ひとつひとつの作品に、そのときの盛田隆二がガツンとぶつかってる感触が作品を通して伝わってくる。今後の作品も楽しみ…と思ったところで単行本の新刊を今日発見したので、近日中に読了予定。