冒険の国 (新潮文庫)(桐野夏生/新潮社文庫)

冒険の国 (新潮文庫)
文庫の新刊でこれを見かけて、「え?こんなタイトルの作品あったっけ?」と手に取ってみると、文庫書下ろし。ついに国内ウレセン作家まで、いきなり文庫からか…!?と焦ってみたところ、ちょっと事情が違った。これはすばる文学賞の最終選考に残ったものの受賞にはいたらなかった<幻の処女作>を改稿したものらしい。枚数も少ないし。
30代独身・永井美浜は家と会社の往復のみの単調な生活にうんざりしている。<家>は同じく三十代で独身の姉、市場で働く母親、主夫の父親の4人家族、東京ディズニーランド近くで若い家族の多い(当時)新興マンションではちょっと浮いてる存在だ。あまり社には顔を出さない所長とふたりきりの職場も冴えない。ところがその職場のテナントビルで幼なじみの恵一に再会する。恵一は姉の同級生で、恵一の弟・英二と美浜が恋人同士だったころ、英二は自殺した。今もその理由がわからずに心の中のくさびとなっている美浜とその家族は、美浜と恵一の再会によって小さな波紋を引き起こしていたー。
うーん、たしかに。改稿したといっても今の桐野夏生の作品とはずいぶん雰囲気が異なる。過去の事件をきっかけになにかにとりのこされた人たちが描かれてるんだけれども、突き放されたような、ある意味あいまいなラストだし。描写は上手いんだけど、ストーリー的にはもうちょっとすっきりさせてほしいとも思う。でもそれは今の桐野夏生を知ってるからだな。書きたいことを表現できる手法がまだ確立してなかったんだろう、と素人目にもわかるから。
ま、でも現在の作品と比べていろいろ感じるところもあるから、桐野ファンなら読んで損なしな一冊じゃないでしょうか。