ベター・ハーフ (集英社文庫)(唯川恵/集英社文庫)<20>

ベター・ハーフ (集英社文庫)
この人の作品読むの久しぶりだなぁ。ミステリでもファンタジーでもなく、ついでに重くないもの(物理的にも精神的にも)、を探していたところ新刊でこれがあったんで買ってみました。
ある女の結婚生活を描いた作品。あいかわらずこの人は嫌な女を書かせれば上手いですね。もー絵に描いたような嫌な女だ。まー時代もあるんでしょうかね。バブル期の真っ最中、貧乏臭い男はお断り、男の金で飲んで食って、上司の素敵なオジサマと大人の関係を築き、ついに広告代理店の男と結婚! ね? はやく不幸になることを願わずにいられないこの女・永遠子の結婚式から物語がはじまる。ここからがある意味痛快なのだが、本当にこの結婚生活はひどいものだったのだ。まず冒頭、結婚式の会場で夫・文彦の愛人が自殺未遂やらかすし、成田離婚と息ごんだものの、お互いの実家に問題が生じてふたりはしようがなく新居で生活をはじめることに。ところがもちろん上手くいくはずもなく…。常時冷戦。お互いの浮気にも気付きつつ、離婚するパワーもない夫婦。しかもそこに訪れるのはバブル崩壊…。
これが意外に面白かったんだよね〜。皮肉な目で見てるんじゃなくて、やっぱ結婚ってきれいごとじゃないから。多かれ少なかれ、夫婦がぶつかる壁をリアルに描いてると思う。
印象に残ったのは、結婚とは入れ子の箱を開けていくようなものだ、と結婚式場につとめるベテランの赤井さんが文彦に教えるエピソードだ。入れ子っていうのは民芸品の、開けても開けても小さな箱が入ってる箱のことだ。わたしも子供の頃持ってた。それはそうかもしれない、と思う。開けるのをやめてしまったら終わりだし。でもずっと開け続けて、いつか中身が空っぽの箱にまでたどり着いたら、どうするのかな。それとも本当に空っぽな箱なんてなくて、開け続けることに嫌気がさしたり,次の箱の中身に興味がなくなったら終わりなのかな。どうなんだろう。
この夫婦は今にも途切れそうな線で結ばれて、なんとか続けていられる。でもバブルの調子に乗ってた夫婦、と冷笑的に見れないのは、この物語が夫婦の本質的な問題を突いてるからだろう。後悔、もしくは絶望、そして現実の肯定……シーソーのように揺れ動くふたりの気持ちが痛いほど伝わってくる。面白かったです。