星の王子さまの眠る海(ソニー・マガジンズ)<17>

星の王子さまの眠る海
id:mike-catさんのところで紹介されてるのを読んで、ちょっと興味がわいたので買ってみた。


星の王子さま」…中学校のころに読んだ記憶がある。でもストーリーはそのイメージよりちょっと難しくてあまり覚えておらず、大きなものをのみこんで変なかたちになったウワバミの絵だけがなぜか記憶に残ってる。


本書は長年謎とされていた、「星の王子さま」の著者であるサン=テグジュペリの死の真相に近づくノンフィクションである。わたしはこのサン=テグジュペリのことをほとんど知らなかったので、この作品で描かれる彼の姿がとても意外に思えた。「星の王子さま」はなんだかさびしい話だったように記憶してる。だからというわけではないが、その著者もすごく繊細なイメージだったのだ。


たぶん、そのイメージは間違ってないと思う。深いところでは、彼はかなり繊細だったのだろう。でも当時、彼は<伝説の飛行機乗り>だったのだ。何度失敗してもあらゆる手段を用いて、操縦席に座ろうとした男。あんなに繊細な物語や絵を描くひとが、一方で<空>にひどく執着していたー。そこには大きなギャップを感じるようで、でもなんとなく納得できるような気もするのだ。


いまだ彼の遺体は発見されていない。1944年、彼は軍の偵察機に乗って飛び立ち、そして姿を消した。いくつかの目撃証言はあったものの真相はわからずじまいだった。


それからおよそ60年後、マルセイユの漁師が彼の名が刻まれたブレスレットを発見したことから、事態は大きく動き始める。騒ぎ立てるマスコミ、真偽を疑われるブレスレットの存在、テグジュペリの死を伝説のままにおいておきたい遺族たち、うそつき呼ばわりされる発見者たち…。ところが数年後、ブレスレットが発見された場所と同じ海域で、彼が乗っていたものと思われる偵察機が海底から発見されー!?


ノンフィクションといえど、新聞社の記者である著者は発見者たちと行動を共にしており、後半の偵察機が発見されるくだりにいたってはリポートに近いし、彼らへの想いも強く感じられる。でもその見方が偏ってるように思えないのは、ブレスレットの発見者たちが一度痛い目にあってるからだろう。発表の段どりが悪かったことに加え、ブレスレットの発見だけでは解けない謎が多かったため、彼らは嘘つき呼ばわりされた。だから偵察機と思われるものを発見しても、完璧な証拠を見つけるまでは決して公表しなかった。同じ鉄を踏みたくなかったのだ。著者は彼らと行動をともにしていたどころか、積極的に自分も調査に加わっていたが、それは誰にもケチを付けさせない完璧な証拠を求めるためだった。だからこの作品にはリアリティがある。


サン=テグジュペリの遺族のかたくなな態度に関しては、一概には言えない。著者の意見は冷静で一般的な意見のように思えるが、でもたぶん最初のブレスレット発見のときの段取りの悪さが遺族たちにとってはひどく気分が悪いものだっただろうことは想像に難くない。だってそれこそ一般的に考えて、いくら有名人とはいえ謎の死を遂げた自分の親族の重要な情報が、新聞やTVによって自分に知らされたら、かなり嫌な想いすると思う。少なくともわたしは嫌だ。どう考えてもマスコミより先に親族に知らせるべきことだもの。遺族の人たちから見れば、自分の手柄を自慢したい人たちにしか見えなかったんじゃないかな? 遺族はただ伝説を守ろうとしてるだけだっていうのは一方的な見方で、遺族の人たちからみたらそういう不誠実な対応をする人たちに、自分たちの尊敬する叔父の眠る場所を荒らされたくないっていう意地だったようなかんじがするんだよね。


結局、順番の問題だったんだよね。ブレスレットを発見した船乗り・ビアンコにしてみれば、たまたま見つけたブレスレットが謎の死を遂げた偉人の遺品であったというだけで、一連の騒動に巻き込まれ地元でも冷たい目で見られて、遺族からは冷たい仕打ちで、腹立たしいと思う。問題はブレスレット発見の知らせを受けた地元の名士・ドローズが、偵察機まで発見してから当局に届けようと欲を出したせいな気がするんだけど、本書はそこにはあまり突っ込んでないんだよね。ま、作中でしつこく述べられてるように、ドローズがいなければ偵察機を発見することもできなかったんだろうけどさ。
だからそこにつっこまないなら、遺族に対してもつっこむなよ、と言いたい気分ではあります。


でもね、これは面白かった。だって現実の<謎>に対して明確な証拠を持って、その謎を解き明かすんだもの。死語かもしれないけどロマンを感じるんだよね、謎の死を遂げた偉人の真相をさぐるっていうところに。しかも舞台は海だ! そう考えると、船乗りたちは過去の遺物を海中で見つけることを自慢に思ってるっていう、冒頭あたりのエピソードが全体にじわっと染みわたってる気がするしね。


今度実家に帰ったら「星の王子さま」をもう一度読み返してみよう。それからサン=テグジュペリの他の作品も読んでみたいな。このノンフィクションも良かったけど、それよりサン=テグジュペリ自体にすごい興味わいちゃったからな〜。