東京奇譚集(村上春樹/新潮社)<13>

東京奇譚集
この人の作品を読むのは久しぶり。カフカ以来かな? わたしはあまり村上春樹のよい読者ではない。既刊の作品も半分も読んでないし。ときどき読むと「やっぱ上手いなぁ」とは思うものの、作品世界と春樹ファンによる確固とした輪には入りこめないというか…。
で、この人の短編を読むのははじめてなんだけど、この作品は、そんなわたしのような読者とか、村上春樹読んだことない人とかには、ぴったりな作品かもしれない。
本作は、ありえないようでありそうな、不思議な事件を描いた短編集だ。カフェで偶然出会った女性との交流と、疎遠になっていた実の姉との再会、<虫の知らせ>のような不思議な体験を描いた「偶然の恋人」、ハワイで鮫に襲われ亡くなった息子のため、毎年その地を訪れるピアニストに訪れた小さな奇跡ー「ハナレイ・ベイ」。母親の住む24階と自宅のある26階のあいだで行方不明になった夫の捜索を依頼された探偵の物語「どこであれそれが見つかりそうな場所で」、パーティで知り合ったなぞの女性と小説家の、短くも印象的な恋の顛末を描いた「日々移動する腎臓のかたちをした石」、なぜか自分の名前だけを突発的に忘れてしまう女、その原因を突き止める「品川猿」。
最後の「品川猿」をのぞけば、どれも本当にありそうなファンタジー。あらすじだけを追っていけば新鮮味のあるストーリーではないんだよね。でも、それがすごくいいの。どれもとっつきやすいから。読みはじめると、実力あるストーリーテイラーによって、すぅっとその世界に誘われていく。読んでいてすごく気持ちよかった。
カフカみたいにメタファー連続技みたいなのは、やっぱ今でも苦手だ。でもこういうまっすぐなかんじの作品だと、村上春樹の上手さが際立ってみえる。とりあえず短編集は制覇しようかな…と決意。