県庁の星(桂望実/小学館)<11>

県庁の星
前作の『ボーイズ・ビー』をなんとなく手に取って読んだ記憶がある。そのときの感想↓

イタリアに憧れるへんこつで人嫌いな靴職人のじじい栄造、そして早すぎる母の死を受け入れられない小さな弟を心配する小学生の隼人。二人の人生がそっと交差するみじかい時間を描いたもの。
おもしろい。人物設定もエピソードひとつひとつも心をつかむようにうまい。だけど全体的にうすーく、ラストにドドンと雰囲気に流された安易なストーリー運びが、惜しい。致命的とも言うべきか。もう一歩突き放したものを期待したい。

なんか偉そうだな…わたし。

で、本作。主人公は県庁勤めのエリート役人・野村聡。県庁初の試みとして、民間企業に一年間派遣されるメンバーの一人だ。くじびきで決まった聡の派遣先は、なんと田舎のスーパー…。がっくりしたものの、一年間の派遣明けには出世コースが待ってることを考え、なんとか我慢して働こうと決意する聡。だけど正論は通らない客との悶着、だらしない店員たち、悪しき慣習…いらいらがピークに達するころ、私生活でも一悶着あり…。そしてもう一人の主人公は、このスーパーに長年パートとして働き<裏の店長>と呼ばれる二宮泰子。根は優しいのだけどきつい物言いでちょっと疎まれてる存在だ。杓子定規で問題ばかり起こす<ケンチョウ>に手を焼きながら、一方私生活では20歳になる息子との関係がギクシャクしており…。
なかなかテンポよく読ませるのだけど、ちょっと聡のキャラが変わり過ぎだ。やっぱストーリーに流されてるんだよね。最初はいかにもお役人的な凝り固まった考え方するキャラだったのに、ラストはすごいものわかりいい人になっちゃってるもん。いろいろ彼の内面を揺るがす事件があったせいではあるけど、成長というより豹変?に近いんだよね。そこの違和感がちょっと残念。一方で泰子側から描かれるストーリーはいい。人との付き合い方について自分の考えをちょっとずつ改めていくあたりが、まっすぐ描かれてて。息子との距離もリアリティあるし。
それからどうでもいいことなのだけど、作中では「焼きそばパン」を「焼き蕎麦パン」と記述してるのだけど、なんか変じゃない? 間違いじゃないし明確な分け方はないんだけど、「蕎麦」っていうのはそば粉を使った日本蕎麦で、「焼きそば」とか「中華そば」の「そば」ってひらがなで表記する方がしっくりくると思うんだけど。ていうかはじめて見た字面だし。そこ、こだわるとこか?