コロラドの血戦 (新潮文庫)(クリントン・マッキンジー/新潮文庫)<3>

コロラドの血戦 (新潮文庫)
『絶壁の死角』に先んじるシリーズ第一作目にして、この著者にとっての処女作。順番を前後して読んでしまったことが悔やまれる。こちらを先に読んでいたら『絶壁〜』もずっと楽しめただろうに…。


麻薬捜査官のアントンは空軍大佐である父親とともに、思い出の地・コロラドでクライミングに興じていた。もうすぐ私有地化されるその山々に別れを告げるとともに、二人にはもうひとつの大きな目的があった。それは麻薬中毒で騒ぎばかり起こす兄・ロベルトとゆっくり話し合うことー。なかなか現れないロベルトにやきもきしながら待つアントンは、山の仲で集会を開いていた環境保全団体と知り合う。それはその山々を含めた土地の不正取引を訴えるものだった。何やらきな臭い雰囲気を感じつつも、アントンはやっと現れたロベルトと父親の仲裁を優先させる。ところがすぐそばで殺人事件が発生、なんと容疑者にされたのはロベルト…。警察や司法にまでその権力を振りかざす土地の名士・ファストとそのパートナーを相手に、アントンの戦いが始まるー


いいね〜このスピード感。加速する物語の勢いに引き込まれて一気読みしてしまった。ただちょっとファスト側があまりに安直すぎるのが難点といえば難点か。すごい権力者という設定なのに、そのあまりのアホさ加減はひねりがなさすぎで、相手にとって不足あり、だ。そういうストーリーの単純さは『絶壁〜』でも感じたんだけどね。


それにしても主人公を押しのけて存在感ピカイチなのは主人公の兄・アントンだろう。麻薬常習者で「危険」を何よりも好む男ではあるが、ある一面では家族想いだし、「女子供動物をいじめる奴はとりあえず殴る」とか彼なりの正義に乗っ取った行動でよくパクられるし、いつも最高のタイミングで現れるし、愛嬌はあるし、ルックスはハリウッドスターばりだし…。こうやって列挙していくと、こんなワイルドないい男がこの世に存在するか!と腹立たしくなるほどファンタジーな男なのだ。なんか改めて考えると、この人の作品は非常に水戸黄門的である。悪い奴はどこまでいっても悪い奴で、いい奴はどこまでいってもいい奴、みたいな。ストーリーと同じく、キャラクター造形もどこか安直だ。


あれ?なんかこの作品をけなしてるような感想になってきたな…。でも面白かったんだよ? そこらへんの欠点を差し引いても読ませるその筆力は確かだ。そしてこの物語は、家族のつながりを取り戻すといった側面が深みを持たせている。また虐待されていた時代を経てアントンに引き取られ彼に尽くす、獰猛で熊のような犬・オソの存在もいいし。


このシリーズはまだまだ続くよう。もうちょっと多面的な人間性の描写が上手くなってくれることを期待しつつ、次回作を待とう。