LOVE(古川日出男/祥伝社)<4>

LOVE
品川、白金、目黒、五反田を舞台にした、著者いわく「巨大な短編集」。主役は二十人、そして猫たち。すれ違う、出会う、見つける。そして事件は起こる。もしくは起こらない。ばらばらのピースが時折奇跡的にピタリとハマる。もしくはハマらない。…あぁわけがわからなくなってきた。平たく言えば、神の視点から見た人間観察日記?
どうなんだろう。のめり込むようなタイプの小説ではない。濃厚だがあまりに小さなパーツたち。のめり込みそうになるとスパっと切られるかんじが断続的に続くせいか、読んでると歯がゆさも感じる。
でもこの人の世界の基礎をなすものは、この作品に詰め込まれてるのかもしれない。『ベルカ〜』も細かいパーツによって全体像を結んでる作品だし、『サウンドトラック』は後半がかなりとっ散らかってたし。『サウンド〜』が二人きりのひとつの世界から木の枝のように様々な方向へ分かれていったままラストを迎えたのに対して、この作品は最初からおもちゃ箱のよう、一方『ベルカ』は時代を経てパーツが分かれても最後まで一本大きな筋が通ってるかんじ。
ただこの作品ではじめて古川日出男を読む、という人にとっては辛いかもしれない。『ベルカ〜』や『サウンドトラック』に比べると、読者をあおるような疾走感がこの作品にはない。それが悪いとか失敗してるとかいうのではないけどね。ただ読みやすくはないだろうと。
しかし味わい深い小説ではある。欲を言えば、舞台となったあたりにもっと土地勘があれば読んでて楽しいだろうな。わたしは東京に住んでてもあまり足を向けないあたりなので。細かい部分で言えば、都バスをこよなく愛する小学生・トバスコと、さすらいのシェフ・丹下のエピソードが好き。
しかし最後の著者紹介のところでこの作品について、「前作『ベルカ、吠えないのか?』に対する猫的アンサーである」と書かれてるけど、物語における重心の比率からいって<人間的アンサー>という気がするんだけどなぁ。ストーリーにはあえて積極的に参加してこないのが猫的ってこと?