獣たちの庭園 (文春文庫)(ジェフリー・ディーヴァー/文春文庫)<2>

獣たちの庭園 (文春文庫)
ときは1936年、ニューヨークの暗黒街で名を馳せる殺し屋、ポール・シューマンは、上院議員からこれまでのポールの罪をチャラにするという切り札で もって「ある仕事」を頼まれた。それはヴェルサイユ条約以降、再軍備化をすすめるヒトラーの頭脳、ラインハルトの暗殺ー。やむを得ず引き受けたポール は、オリンピック開催に沸くベルリンに乗り込んでいく。次々と起こる不測の事態、ポールを追いつめる優秀な刑事・コールの存在、ラインハルトの狂気を帯びた計画、政治的駆け引き、待ち受ける罠、そして開幕目前のオリンピックー全てを巻き込んで怒濤の勢いで物語は進む。
いやー面白かったなぁ。まず舞台がいい。第一次世界大戦に破れ屈辱的なヴェルサイユ条約を結ばされたドイツ帝国が、再び覇権国家を目指して着々と準備を進めているという、緊迫した時代。ヒトラー周辺の高官たちの駆け引きだらけな黒幕も読み応えがあるが、いわゆる普通のドイツ国民たちのナチスドイツへの接し方が丁寧に描写されていて興味深い。嵐が過ぎ去るのを息をこらえて待ち続けるもの、平気で隣人を告発するもの、「ユダヤは悪」ということを疑いもしない子供たち。「自分自身に正直である」ということが許されない時代に生まれた彼らの苦しさがひしひしと伝わって来る。
また、主人公の立場が追われるものでもあり、追うものでもあるという二重構造が、物語のスリリングさをぐっと増している。ポール自身のキャラもいい。有能な殺し屋といっても、心の中にまっすぐなものを持ってて、だから人に好かれるし、逆に犯罪者としてはちょっと「隙」がある。もしかしたらそんな「隙」を感じてしまうのは、ライムシリーズであまりにも完璧な犯罪者たちに慣れきってしまったせいかもしれないが…。
そしてこの作品にもあります…ディーヴァーお得意のどんでん返し!夢中になって読んでるうちに足をすくわれちゃうんだよね〜。読後感もいいです。ポールの最後の決断は、とても彼に似合ってるし。たぶんこれは一話限りの作品だろうけど、登場人物たちには随分愛情を持ってしまった。
ライムシリーズ最新作『The Twelfth Card』は来年刊行。それから年末には短編集が出るらしい。この人の短編は読んだことないけど…どちらも楽しみだ!