沼地のある森を抜けて(梨木香歩/新潮社)<45>

沼地のある森を抜けて
亡くなった叔母から、「家宝」を受け継ぐことになった久美。それは代々受け継がれてきた「ぬかどこ」だった。それは気に入らない人間が手を入れればうめき声を出し、不思議な卵を産み出すー。そんな「ぬかどこ」に振り回されっぱなしの久美は、「ぬかどこ」と一族にまつわる謎の真相に近づこうとするのだが…。孤独な単細胞から生み出されたこの世界のすべての命ーそのたくましさと個々のつながりを、丁寧に幻想的に描いた長編ファンタジー
なんだろうこの読後感は。読んでいるときは抽象的すぎるとまで思えたのに、読み終わって考えていると、なんか悟りを開いたような気になってしまう。ぼうっと本を読んでるわたしも、TVの中にいるアナウンサーも、窓の外で鳴いてる虫も、その虫がとまっているだろう植物も、もとをたどればたったひとつしかない単細胞…そんなふうに想いを馳せれば、自分が存在するこの世界がとても愛しい。
でもだからといって、同じ細胞から生まれた仲なんだからお互いを大事にしようとか、説教臭いことを言ってるわけじゃない。淘汰することもまた、自然の理。その前提に立って、わたしたちはみんな繋がってる、と考えると安心できる。でも不思議で、考え深い。
一方で、「個」とはなんなのかーということも問いかけてくる。自分自身の「個」を疑わずに信じていることで、逆にその世界を狭めているのではないか?あなたの「個」は本当の意味でオリジナルと言えるのか?ーと。
う〜ん、言葉にするとなんか抽象的になってしまうな。でもこの小説は、本当に深い。一度読んだだけじゃ本当に理解してないかもしれないほど深いし、でもどこまでも寛大で優しい。ちょっと違う視点で世界を見せてくれる、希有な小説だと思う。
これまでの梨木作品に比べると、「濾過された」感がある。上手く言えないんだけど、物語の雰囲気より、伝えることにより重しが置かれた感じ。万人受けするタイプでないのかもしれないけど、わたしはすごく好き。とりあえず、もう一度読みたい。