青空チェリー (新潮文庫)(豊島ミホ/新潮文庫)

青空チェリー (新潮文庫)
豊島ミホ初の文庫化。「R-18文学賞」受賞作を含めたデビュー作でもある。発売当時に読んだんだけど、今手元にないうえ、文庫化にあたり大幅に加筆修正されてるとのことで買ってみました。
★「ハニィ、空が灼けているよ」
戦時下の日本ー大学生の麻美は恋人である教授から「首都は危ないかもしれない」と聞かされ、夏休み中田舎に帰ることに。何もない田舎、だらだらと続く長い夏。久しぶりに再会した幼なじみ・映二となんとなく付き合う。二人の退屈な夏に忍び寄る戦争の影を麻美は感じて…。
この作品がかなり加筆されたよう。親本が手元にないのが悔しいが、最初読んだ時はもっと乾いたイメージだった気がする。基本的なあらすじはそのままなのだけど、構成を変え、いくつかのエピソードが加わって濃密さを増したストーリーが胸にぐっと来る。豊島ミホの進化が一番感じられる作品なのではないだろうか。
★「青空チェリー」
晴れた日は予備校の屋上で隣のラブホテルを覗き見するのが趣味の主人公・千花。ある日いつものように屋上に出ていると、知らない男の子がやって来た。彼の目的も千花と同じようで…。
こちらが「R-18文学賞」受賞作。こちらはほとんど手を加えられていないよう。改めて読むと、デビューにしては上手い作品だなぁと思う。ヘリコプターが近づいてくるシーンがとてもいい。「女による女のための…」と冠がついたこの文学賞に傾向を合わせたのか、他の豊島作品に比べるとちょっと雰囲気が異なるが、この突き抜けた感じがとても好き。
★「誓いじゃないけど僕は思った」
中学校のころに好きだった女の子・アツコをなぜだかずっと忘れることができない大学生・浩介の葛藤と成長を描いた一編。
これが全然記憶にないのだけど、単行本で「なけないこころ」だったものをストーリーから焼き直ししたもの、らしい。まわりから取り残されていくような不安を抱えた主人公の心情が、なんかよくわかる。


著者近影がうつむいた写真なのはなぜだろう。ま、いいけどさ。今一番期待の作家。どんどん作品書いてほしいです。