神の名のもとに (講談社文庫)(メアリー・W・ウォーカー/講談社文庫)

神の名のもとに (講談社文庫)
この人の作品読むのは初めて。ちょっと前に読んだ講談社の「 In・pocket―月刊〈文庫情報誌〉 (2005年5月号)」翻訳ミステリ特集で、宮部みゆきが強烈にプッシュしてた作品で復刊されたもの。
狂信的カルト集団が小学生17人とスクールバスの運転手を人質にとったー世界が終わる日のための生け贄としてー。事件が発生してすでに一ヶ月以上…もともと交渉する気がはなからない相手にFBIも行き詰まっていた。女性記者のモリーは以前そのカルトのリーダーにインタビューをしており、気が向かないものの事件の糸口を探り始める…。
物語は二つの側面から描かれる。ひとつは子供たちとともに人質となった運転手・ウォルターの視点。彼は余生をひっそりと生きようとしていたベトナム帰還兵だった。子供好きでは決してないが、怯える子供たちを世話したり即興でつくり話をして子供たちの気を紛らわせたりするうちに、なんとしてもこの子供たちを守りたいと強いリーダーシップを発揮していく…。一方のモリーはカルトのリーダー・サミュエルの狂気を目の当たりにしているだけに、この事件に関しては目を離せないながらも逃げ腰だったものの、上司にけしかけられ調査を開始する。人質となった子供の母親からもたらされた情報を手がかりに、サミュエルの内面に近づいていくのだが…。
語り口が上手いし<タイムリミット>がある設定も手伝って一気読み。でも一方でものすごくリアリティーが希薄になってる部分が気になった。たとえば、捜査が行き詰まったとはいえ一人の記者にここまで情報を提示してさらに協力までしてもらうか?とか、いくら交渉が進まないからといって事件が公になっている以上FBIが事件発生から40日以上ものあいだ突入しないのはおかしいんではないか、とか。今、ミステリほどリアリティーを必要とするジャンルもないでしょう。それだけにすごく気になる。気になるんだけれどもそれでも最後まで読み通させる筆力があるのも事実だ。人物描写がめちゃめちゃ上手いもの。だからこそそんな"穴”を感じさせないこの人の作品をぜひ読んでみたいと思った。