ターミナル・エクスペリメント (ハヤカワSF)(ロバート・J・ソウヤー/ハヤカワ文庫)

ターミナル・エクスペリメント (ハヤカワSF)
ソウヤー祭、続いております。
脳死>の正確な瞬間を見極めたいと研究を続けていた医学博士・ホブスンは、人間の<魂>の存在を科学的に立証することに成功した。この発見は医学界はもとより宗教観も交えて世界中を揺るがすことに。魂はどこから来てそしてどこへ行くのか…その正体を見極めるためホブスンは最新技術を用いて自分の脳をスキャンし、自らの精神のコピーを三通りコンピュータ内につくり出した。研究を進める一方、現実世界ではホブソンの嫌いな人間が次々と殺されていく。まさか犯人はホブスンのコピーなのかー?
またこのいかにもSF的なストーリーは、人間臭いもうひとつの重大な側面を持っている。ホブスンとその妻・キャシーの関係だ。子供がいない二人だけの生活は、倦怠を感じながらもうまくやっていた。キャシーが同僚との不倫を告白するまではー。過去の中絶というしこりを残したまま、二人の関係は妻の告白によって最大のピンチを迎える。自分の記憶もコピーのように編集できればいいのに…そう願うホブスンの苦しみが切ない。そしてキャシーの浮気相手が残酷なやりくちで殺害されてー。
つまりこの作品はガチガチなSFでもあり、そして夫婦の物語でもある。その二つのストーリーが絡み合い、AIの予想もつかない行動というホラーサスペンス的な要素も加わって物語は急速に展開する。一気読みでした。毎回言ってるけど、やっぱソウヤーは面白い!ちょっとラストは宙に浮いた感じがしたけど、ま、それはしょうがないだろう。<魂>だもの。どんなラストにしても説得力は薄れるだろうし。
あまりSF小説の良い読者ではないという瀬名秀明が解説でこう語る。

その私がロバート・J・ソウヤーにハマった。とにかく読み始めると途中で止められない。読み終えると今度は他の作品が欲しくてたまらなくなる。こんなすごい作家をいままで見逃してきたなんて、いったい自分は何をぼんやりしていたのだ! と叫びたいくらいである。

まったく同感だ。同感だけど、瀬名秀明はSF作家なのにあまりSF小説が好きじゃないと公言するのはどうかという気がするが…。ま、何にせよこれで未読の作品はあと4冊くらいかな。10月に出る三部作の完結編が出る前に全部読んでしまいたい。