サウンドトラック(古川日出男/集英社)

サウンドトラック
『ベルカ、吠えないのか?』に続いてこの人の作品を読むのは二作目。

2009年、ヒーオアイランド化した東京。
神楽坂にはアザーンが流れ、
西荻窪ではガイコクジン排斥の嵐が吹き荒れていた。
破壊者として、解放者として、
あるいは救済者として、生きる少年/少女たち。
これは真実か夢か。

 結論から言うとすごくおもしろかった、でも後半が駄目だった。普段あまり批判的なことは書かないのだけど、これは言いたい。後半が駄目だった。それでもあえて言いたいのは、その後半を含めて読む価値があるほどこの本は面白いからだ。
 二人の幼児がまったくちがう過程を経てほぼ同時期に無人島へ漂着する。二人の名はトウタとヒツジコ。就学年齢にも満たない二人は、野生の羊たちが住むその島で生き延びる。そして数年後、羊の駆除にきた大人たちによって二人は発見される。そして近くの大きな島で二人は戸籍を与えられ、兄弟として生きることになるのだが…。
 駆け足で描かれるこの導入部ですっかりハマってしまった。異常な状態であることも理解できないほどに子供である二人の、サバイバルでありながら安定していた無人島生活。それから一転、人情あふれる島で他者と関わる不安定な新生活。二人の意識は自然と島の外へ向かっていく…。
 舞台が東京に移ってからしばらくすると話がとっ散らかってしまった印象があるが、それでもスリリングな展開で読ませる。一年の四分の三が真夏となってしまった東京、多国籍な街となってしまった神楽坂、一方ガイコクジンを入れないため自警団までつくってしまうほどナショナリスト気運の高まる西荻窪…崩壊寸前の世界を変えることは出来るのかー!?
 つまりは…この本は面白いってことなんだよねぇ。前半が良すぎたのだ。だから後半がちょっと色あせて見える。贅沢な話だけども。二段組み450ページにわたる長い物語だが、読んで損はさせない。この人の文章は読むものを惹き付ける、と思う。わたしはめちゃくちゃ惹き付けられてる。ほかの作品も読まねば。
 余談ですが、こないだ『ベルカ〜』を読んだ後は、イヌを見かけるとそれまで以上のシンパシーを感じて近寄りたくなったものだが、この本を読んだ後はこれまでも怖かったカラスがさらに怖くなってしまった…。
 さらに余談ですが、これからこの本を読む人は、熱帯夜、クーラーを付けないで読むと気分が盛り上がるかと…。