ベルカ、吠えないのか?(古川日出男/文芸春秋)

ベルカ、吠えないのか?
町田康の「告白」に続いて、同じく豊崎由美絶賛の作品に手を出してみる。この人の作品を読むのははじめて。

一九四三年、北洋・アリューシャン列島。
アッツ島の玉砕をうけた日本軍はキスカ島からの全面撤退を敢行、無人の島には四頭の軍用犬「北」「正勇」「勝」「エクスプロージョン」が残された。自分たちは捨てられたーその事実を理解するイヌたち。その後島には米軍が上陸、自爆した「勝」以外の三頭は保護される。やがて三頭が島を離れる日がきてーそれは大いなる「イヌによる現代史」の始まりだった!

たくましい生存能力とかしこい頭脳で戦場を生き抜く「イヌ」。戦場に残された三頭の優れた血を受け継ぐ「イヌ」が世代を超えて、やはり戦場を走る。「戦争の世紀」ともいわれる20世紀を「イヌ」視点で描いた、壮大で不思議な物語。「イヌ」視点といっても別にイヌがしゃべるわけじゃないから第三者の目線から描かれてるんだけど、「イヌよ、イヌよ、おまえたちはどこにいる?」という神の視点にあるようなその文章が読むものをぐいぐい引っ張りこむ。そして人間という生物のアホらしさが身にしみます。面白うございました。
これまた豊崎由美が「本の雑誌」で言及してたことだけど、たしかにイヌたちの系譜とかつけてくれるとわかりやすかったかも…。